偏屈なオヤジがいるすし屋
10月2日(土)、3日(日)
この2日間、学会の大会が、うちの職場で開かれるため、当番校のスタッフとしてお手伝いすることになった。
1日目の行事が無事終わり、夕方6時から、ホテルの会場で懇親会が始まった。
そこで、大学時代の研究室の大先輩であるOさんとお会いする。
私より年齢がひとまわり上のOさんは、ひとことで言えば「強烈な個性の持ち主」である。とにかく大声でよくしゃべり、よく食べ、よく飲むのである。とくにOさんの大食いぶりは有名である。
数年前、東京にいるOさんが仕事の関係で私の職場にいらしたとき、夜、美味しい料理と美味しいお酒が飲めるお店に連れていったことがあった。
3次会までつきあわされて、しこたま飲み、しこたま食べたあと、Oさんが「ラーメンを食べに行こう」という。
すでにそうとう腹がきつかったが、ラーメン屋までおつきあいすることにした。
だが、ラーメンを食べたあと、私は猛烈に胃が痛くなった。家に帰ってから、のたうちまわるくらい痛くなったのである。
だが、Oさんはなんともなかった、という。
Oさんにあわせて食べたらエラいことになるな、とその時に実感した。そしてそのラーメン屋には、それ以来行っていない。
とにかく、いちど見たら忘れられないほどのインパクトの持ち主である。
大学の研究室の先輩方に嫌われている私だが、なぜかOさんだけにはかわいがられている。
誰に対しても裏表のない、Oさんの人柄ならではであろう。
Oさんは、懇親会場で後輩である私を見つけると、近づいてきて大声で話しはじめた。
あろうことか、同じく懇親会に参加されているある先生の、学生時代の「恥ずかしい話」を、嬉々として大声でしはじめたのである。
(大丈夫かなあ…)私は聞きながらハラハラした。
案の定、その先生がOさんのところにやってきた。
その先生が立ち去ったあと、Oさんは「まさか、あの人の(恥ずかしい)話をしているときに、本人が来るとはねえ」と、バツが悪そうだった。
(あれだけ大声で話していれば、誰だって気づくだろうに…)と思うのだが、Oさんは、そのことにまったく気づいている様子もない。
「憎めないキャラ」というのは、Oさんみたいな人をいうのだろうと思う。
Oさんはまた、懇親会の料理や酒についても文句をつける。「同じような料理ばっかりだ」「日本酒が少ない」「ワインの味が甘い」など。
「これ、地元で作ったワインだろ?」とOさん。
「そうですよ」と私。
「ちょっと甘すぎるんだよなあ」
「でも、そう言いながら、何度もおかわりしてるじゃないですか。本当は美味しいと思ってるんでしょう?」
「ま、美味しいといえば美味しいんだが」
「『美味しいといえば美味しい』ってことは、『美味しい』ってことでしょう!」
Oさんは、ヒトやモノを素直に褒めない。まったく、メンドウくさい性格である。
「このあと、2次会に行くぞ!」Oさんが私に言う。予想されていたことではあった。
「前に、駅の近くにある『○○寿司』というすし屋に行ったことがあったんだ。そこのオヤジが偏屈でね」
「どういうことです?」
「某学会の1次会が終わってから、そのすし屋に入って、カンピョウ巻と玉子を注文したら、『いや、もうネタがないんで、帰ってもらえると嬉しいんですがねえ』って言うんだ。こっちは、もうカウンターに座って、『カンピョウ巻と玉子だけでいい』って言ってんのにだよ!客に向かって『帰れ!』なんて言うオヤジは、偏屈に決まってるんだ」
「へえ」
「だから、今からそこへいくぞ。捲土重来!」
「ええぇぇ!?イヤですよ。そんな偏屈なオヤジがいる店なんて!」何を好きこのんでそんな店に行かなきゃならないんですか、と私が反論する。
「前は閉店10分前に行ったからダメだったけど、今からなら大丈夫だろう」
???
「ちょっと待ってくださいよ。『帰ってもらえると嬉しいんですがねえ』と言ったのは、オヤジが偏屈だからじゃなくて、閉店時間だったからじゃないですか?」
「いや、そんなことはない。オヤジが偏屈だったからだよ」Oさんが反論する。
私には、偏屈なのはすし屋のオヤジではなくて、Oさんの方だと思えて仕方がなかった。
「とにかく、そのすし屋に行くからな」
「はあ」
「で、そのあと、例のラーメン屋に行くぞ」
「それだけは勘弁してくださいよ!」
結局、懇親会が終わってから、数人でそのすし屋に行くことになった。
のれんをくぐり、カウンターに座る。
オヤジが1人で切り盛りしている、小さな店である。
おどろいたことに、そのオヤジが、ビックリするくらい、人のよさそうな、腰の低いオヤジだったのである。
私はOさんに小声で言った。
「全然偏屈じゃないじゃないですか」
「おかしいな…。オヤジ、今日はえらく機嫌がいいんだな」
いや、どう考えても、人のよさがにじみ出ているオヤジである。
「やっぱり、前回は閉店間際に行ったのがまずかったんじゃないですか?」
「いや、今日はたまたま機嫌がいいだけだ」Oさんは、決して認めようとしない。
「偏屈なのは、オヤジじゃなくて、あんただよ!」という言葉がのど元まで出かかったが、尊敬する先輩なので、ぐっとのみこんだ。
寿司と、コップ酒2杯を飲んで店を出る。
「今度はそばが食いたい」とOさん。
駅の近くの、よく行く「日本酒とそばが美味しい店」に連れていく。
地元の銘酒と自慢のそばを堪能する。
「どうです?美味しいでしょう」と私。
「まあな。量は少ないけどな」
あいかわらず、素直に褒めない。
「よし、じゃあ次はいよいよラー…」
「勘弁してくださいよ!明日も朝早いんですから!」
夜11時半。なんとかOさんをなだめて、解散した。
Oさんは、とても名残惜しそうな顔をして、ホテルへと帰っていった。
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