「キョスニムと呼ばないで!」でくのぼうの1日
10月24日(日)
大学祭、2日目。
10時半すぎ、やや遅れて職場に到着。さっそく屋台に向かう。
みんな、手際がいい。
チヂミを焼く人、会計をする人、下準備をする人など、役割分担がしっかりとしている。
建物の中に入ると、狭い部屋の中で、数人が一心不乱に豚肉やニラを切り、チヂミの下準備をしている。
寒々とした部屋で、外との交流も閉ざされた状態で延々とニラを切っている姿を見ると、なぜか「申し訳ない」という気分になって、外に出た。
さて、私は、というと…。
何にもすることがない。何もすることがないのだ。
何か手伝おうと思っても、どうしていいかわからない。
「先生も、『いらっしゃいませ!』と言ってください。先生がおっしゃれば、きっとお客さんが来ると思いますよ」
と言われるが、さすがに恥ずかしくてそれはできない。それに、私が言ったところで、売れ行きがよくなるわけはないのだ。
ふたたび建物の中に入り、下準備をしている部屋に行く。
ここも、すでに体制がととのっていて、入る余地はない。
しかも、部屋が狭いので、図体のでかい私がいるとかえって邪魔なのである。
「すいません、…そっちにあるニラを取りますんで、ちょっ、どいてください」と言われる始末。
「あぁ、ごめんなさい」
いたたまれなくなり、ふたたびオモテに出ようとした。すると、
「あ、材料が足りなくなりそうですよ」
と3年生のSさんが言う。今日は売れ行きがよいおかげで、あらかじめ用意していた豚肉や卵やチーズが、このままだとお昼前になくなってしまう勢いである。
「買い足さないといけないね」と私。「私が買いに行ってこようか?」
「ダメですよ、先生!」と4年生のA君。
「でも、別にやることもないし…」
「キョスニムにパシリをさせるわけにいきませんよ!それこそ本末転倒な話です」
そういうものかねえ。
「先生は、外のお店のところに座っていてください。それだけでお客さんは来るんですから」
そんなはずはないのだが…。
言われたとおり、お店のところにしばらく座っていると、あることに気がついた。
お客さんは、別に店の名前とか看板に目もくれず、チヂミを買い求めている。
うちのチヂミはたしかに美味しい。それに、安いのだ。
ははーん。私は、いてもいなくても同じなんだな。店の名前も、売れ行きとは全然関係ないことがわかった。
それに、私の名前を冠したソース。「先生の名前を冠したソース、評判がいいんですよ」と4年生のNさんは言う。
しかし、Nさんがお客さんにいっている言葉を聞いていると、
「チヂミにかけるソースは、ふつうの醤油と特製ソースと、どちらにいたしますか?」
と言っている。そう言われたら、誰だって「特製ソース」と答えるだろう。私の名前を冠しているからみんなが選ぶのではなく、「特製ソース」だから、選んでいるにすぎないのだ。
うーん。私がいる意味はますますわからない。
手持ち無沙汰にしているのを見かねたのか、Nさんが「これ、抽選券なので、これでくじでもひいてきてください」という。
抽選会場に行って、ガラガラと回しながら出た玉が白。つまりハズレである。
「残念でした」と、ポケットティッシュを1つ渡され、うなだれて店に戻った。
しばらくして、私の店の学生たちが騒ぎ出す。
「E君が抽選で特賞を当てたぞ!」
なんと、3年生のE君が、特賞の「ペアチケット」を当てたのである!このおかげで、うちの店のメンバーの士気も高まった。
それにひきかえ私はときたら…。
これではまるで、でくのぼうではないか!
心がボッキリと折れて、少し放浪の旅に出ることにした。(つづく)
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