自転車泥棒はダメよ
9月29日(水)
4年生数人に、「晩ご飯を食べに行きましょう」と誘われ、以前に行ったすき焼き食べ放題の店に行くことになった。
毎年思うことだが、卒業後の進路が決まったあとの4年生は「最強」である。
道すがら、A君と話をする。
鍵をかけるのを忘れることがあり、よく自転車が盗まれるのだという。
犯人はたいてい、同じ大学の学生の場合が多いのだそうだ。
だから、ほかの場所で盗まれた自転車が、大学の構内で見つかることが多い。
盗んだ犯人(学生)が、通学用に使ったためであろう。
多くの学生が自転車で通学している、わが大学ならではの話である。
「あるとき、自転車が盗まれたんですが、あとで聞いたところ、その犯人が警察につかまったそうなんです」とA君。
犯人は、盗んだ自転車でコンビニに行ったところを、おまわりさんに見つかってしまったらしい。
「これから持ち主に連絡をとるから、持ち主があらわれるまで、この自転車が盗まれないように管理しておきなさい」と、おまわりさんはその犯人に言った。
「で、その犯人は、その自転車が盗まれないように、自転車の鍵をかけて、そのコンビニに置いておいたそうなんです」
盗んだ犯人が、自転車を盗まれないように鍵をかける、という姿を想像して、なんとなく可笑しくなった。A君が話を続ける。
「そしたらですね、……あれ?」
A君が話を止めた。見ると、前から4年生のH君が歩いてきた。
「どうしたの?偶然だなあ」
急遽、H君も一緒に食事に行くことになった。
道すがら、ポケモンのゲームとか、AKB48といった話題で盛りあがりはじめた。私も、わかる範囲で話題についていった。
しかし気になるのは、さきほどの自転車泥棒の話である。犯人がコンビニに自転車を置いて鍵をかけたあと、どうなったのだろう?
しかし話題はあいかわらずAKB48 。ふだんはどちらかといえばおとなしいA君が、熱っぽく語り出した。
このまま、自転車泥棒の話のオチが聞けずに終わってしまうのか?
ひとしきりAKB48 の話題が終わってから、A君が言う。
「そういえば、さっきの話、まだ終わってませんでしたね」
よかった~。このまま最後まで話が聞けなかったら、ずっとモヤモヤし続けるところだった。
「犯人がおまわりさんに言われて、盗んだ自転車をコンビニに置いたまま鍵をかけた、てところまで話をしましたね」
「そうそう」
「で、僕は、そんなこともつゆ知らず、コンビニに行ったら、なんとそこに自分の自転車があるじゃありませんか」
「偶然見つけたの?」
「ええ、偶然見つけたんです」
「じゃあその時点では、犯人がおまわりさんに言われて、自転車をそこに置いておいたなんてことも、知らなかったわけだよね」
「ええ。とにかくその時は、自分の自転車があった!と思ったので、鍵がかかっていたんですが家まで担いで持って帰ってきたんです」
どうもややこしい話である。持ち主が見つかるまで、盗んだ自転車が盗まれないようにと、犯人がおまわりさんに言われて鍵をかけて置いておいたら、自転車の持ち主であるA君が偶然その自転車を発見して、現場からその自転車を持ち出した、というのである。このあと、盗んだ犯人がコンビニにもどって、自転車がないことを見たら、どう思うのだろう?「しまった!また盗まれた!」と思うのだろうか。私は想像して、可笑しくなった。
「そしたらしばらくしておまわりさんから、盗まれた自転車が見つかりました、て連絡が来たんです。でもその時すでに、僕は自転車を取り返してましたからね」
うーむ。実にややこしい話だ。
「でも、被害届だけは出してもらわないと困る、ということになって、そのあと何度も警察から連絡が来たりして、けっこう面倒でした」
たしかに、メンドウな話だ。
「僕も盗まれたことありますよ」と、今度はH君。
「駅前に自転車を置いておいたら盗まれていて、歩いて大学に行ったら、建物の前の目立つところに、自分の自転車がおいてありました」
やはり、犯人は同じ大学の学生だったか。
「その時は、『(自転車を)運んでくれてありがとう』って感じでした」
なるほど、やはり盗まれた自転車は、大学の構内にある可能性が高い、ということなんだな。
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