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コインロッカーが封鎖された日

11月5日(金)

実習4日目、最終日。

この4日間、とくにハプニングなどはなかったが、例年とくらべると、予想外の出来事が多かった。

奈良の異常な混雑ぶりには閉口した。

逆に京都は、ふだんよりも落ち着いた感じだった。これからは、奈良よりも京都だな。

そして最終日。

この日、翌日からの大規模な国際会議の関係で、京都駅のコインロッカーがすべて封鎖されてしまった。

そのことを、前日の夜に学生から聞いて知った。

最終日、京都駅に荷物を預けて行動するつもりが、予定が狂ってしまった。

仕方がないので、必要最小限の荷物だけ残し、着がえなどは、最終日の朝に各自が宅配便で家に送ることにした。

この方法はなかなかよい。来年からは、この方法をとることにするか。

しかし、1人だけ、荷物を送らずに、ぜんぶ持ち歩くという学生がいた。2年生のN君である。

しかもよりによって、N君の荷物は、今回の参加者の中でいちばん大きくて重い。

ほとんどの学生が、キャスター付のスーツケースだったのに対し、N君は、全長1メートル以上はあるであろう、ボストンバッグを肩からかけて登場した。しかも、「鉄球でも入っているのか?」というくらい重いのである。

「何が入っているの?」と聞くと、

「とりあえず、適当につめてきたんです。だから、滞在日数以上の服が入っているかも知れません」という。

私以上に旅慣れない人間がいたのだな。

そればかりではない。

それとは別に持っていた紙袋から、黄色のバカでかいクッションが顔を出している。

「それ、何?」と聞くと、

「往復の深夜バスで寝るときに使うクッションです」という。「いちおう、『萩の月』って呼んでます」

なるほど、「萩の月」ねえ。

実習初日の夕方、飛鳥駅前のレンタサイクル屋さんに自転車を返し、預けていた荷物をおばちゃんからひきとるとき、

「そこの『萩の月』もボクのです」

といって、クッションを返してもらっていたが、関西の人に「萩の月」って言っても、たぶん何のことかわからんと思うよ。

そのN君が、荷物を送らずに、持って移動する、という。

「大丈夫かい?」

「大丈夫です。気合いで乗りきります」

だが、最終日の予定もハードだった。まず朝8時45分から二条城を見学し、その後歩いて御所まで移動し、11時から35分ほど御所の中を見学する。そして京都駅に移動して昼食休憩をしたあと、午後2時から東寺をじっくりと見学する、という日程である。

N君は、この日程をなめていたようだ。

すでに二条城を見学し終わった時点で、バテ気味である。

このあと、30分以上かけて御所まで歩き、まったく座ることなく、ひきつづき御所を歩いて見学する。

出発の時点では大丈夫だと思ったのだろうが、荷物というヤツは、時間がたつにつれて重く感じるようになっているのである。御所の広さが体にこたえたことだろう。

「お昼ご飯を食べたら復活しました」

と、昼食後、元気に復活した様子のN君だったが、午後の東寺の見学の序盤戦から、すでにバテ気味で、ベンチに座り込んでいた。

お昼ご飯で一時的に復活したものの、長くはもたなかったらしい。

「二条城から御所に歩いていく途中で、『ああ、やっぱり宅配便で送ればよかった』と後悔しました」と、ベンチに座っていた彼は述懐した。

東寺の見学が終わり、今度は、東寺から京都駅まで、最後の力をふりしぼって歩く。

午後4時前、解散。今回も無事に終了した。

「深夜バスの出発まで、まだだいぶ時間があるよね。これからどうするの?」

私がN君に聞くと、

「もうどこへも行かずに、喫茶店でも見つけてジッとしています」

という。さすがにどこへも行く気力はないのだろう。

「帰りのバスではもう、『萩の月』は必要ないかも知れません」

そうだろう。ぐっすり眠れるだろうよ。

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コメント

 私めも荷物を全部持って帰らないと気が済まないタイプで、中学校の時は参考書を買いにマジソン・スクウェアガーデンのボストンバック(懐かしい)を持って上野駅を歩いていたために、家出少年と間違われて刑事に職質されたり、高校では自分の机の中のものを辞典も含めて全て大きな肩掛けバックに入れて、引越しよろしく日夜運搬していました。
 現在も、リュック一杯に本だの書類だのを詰めて、家で結局出さずに職場にまたしょって戻る、という生活を続けています。
 一応、六輔の旅行カバンに憧れてもいますが、最近は衣服用の真空パック袋なども購入して、気がつくとアホみたいに荷物を詰めています。
 これは習い性なのです。よく分かります。スリが多い国に行くとき、手ぶらで観光した方が安心だし、歩くにも楽なのに、なぜか不安になるのです。

 そんなN君に是非お伝え下さい。夜行バス用枕は空気でふくらますタイプが折り畳めて便利だと。そして、その分、別の荷物をもっと詰められますと。

投稿: こぶぎ | 2010年11月17日 (水) 11時30分

結局詰めるのかよ!と、いちおうツッコんでおきます。

でもそれ、よくわかります。私もまったく同じですから。詳しくは当ブログ「欲の重さ」参照。

投稿: onigawaragonzou | 2010年11月18日 (木) 00時55分

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