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新・内弁慶ブルース

11月21日(日)

母方の祖母の四十九日法要のため、母の実家がある町に向かう。

東京の隣県にもかかわらず、鉄道を4回ほど乗り換えて、片道3時間近くの旅である。

人口6000人ほどのこの田舎町は、私が子どものころによく遊びに行った30年ほど前と、ちっとも変わらない。時が止まったような町である。変わったことと言えば、子どものころによく通った本屋がずいぶん前に店をたたみ、いまはシャッターが閉まったままになっていたことである。

(そういえば、本を出したこと、親に言わなかったな…)

2週間ほど前に、自分の本が出たことを、親にいっさい言っていなかった。それどころか、本を書いている、ということすら、言っていなかった。

さすがにそれはまずいな、と思い、出がけに、カバンの中に1冊、自分の本をしのばせていた。

それを、四十九日法要のあとの「精進落とし」の時にでも、集まった親戚一同に披露しようか、とも考えたが、私は親戚の中でも「変わり者」として通っていて、ヘンに話題になるのもイヤだったので、黙っていた。

「精進落とし」が終わり、一同が解散になったあと、母に「これ」と言って、本をぶっきらぼうに渡した。

すると横にいた妻が、カバンの中から何かを出して、母に渡している。

見ると、「キョスニムと呼ばないで!」と書かれたDVDである。

「これ、学生が、学園祭のときの様子をまとめたDVDです」と妻。

いったい、いつの間に…?

今回、妻に見せようと、「キョスニムと呼ばないで!」のDVDを東京に持っていった。

金曜日(19日)の夜、東京の家に着いたときに、

「これ、学生が作ったDVDなんだけど、見る?」

と、DVDを渡そうとすると、「あとで見るから、そこに置いておいて」という。

あんまり見る気がないのかな、と思っていた。

翌日(土曜日)、

「DVD、見た?」

「うん」

「どうだった?」

「よくできてますな」

いつの間にか見ていたようだ。

それと、妻にしては、かなりの褒め言葉である。そもそも、どんなによい映画やドラマでも、褒める前に、いったんけなさないと気がすまないような辛口批評家なのである。

「眠いんで、寝ます」

とこの日、妻は一日中昼寝した。

私は散歩に出かけ、喫茶店で原稿を書いたりしてすごした。

で、このときにいつの間にか妻は、このDVDをコピーして、しかも盤面に「『キョスニムと呼ばないで!』主演○○」とプリントし、さながら海賊版のごとく、DVDをもう1枚、作っていたのである。

「よくできてるので、ぜひ見てみてください」と、妻が母に言う。

いつもの私なら、内弁慶ぶりを発揮してキレるところである。なにしろDVDの中には、学生たちが私の似顔絵を描いた看板の写真が山ほど登場するからである。恥ずかしくて、とてもではないが親に見せられないのだ。

だが、ここまでされてしまうと、もはや何も言うことはできない。

なぜ妻は、このDVDを私の母に渡そうと考えたのだろう?

自分の話をいっさい親にしない、この私を見かねたのだろうか。

そしてこれを見せることが、親孝行になると思ったのだろうか?

これがはたして親孝行になるのか、私にはよくわからない。

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