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「ハッピーバースデー」の謎

黒澤明監督の映画「生きる」といえば、劇中で歌われる「ゴンドラの唄」が有名である。

「命短し恋せよ乙女…」

この映画を見たことのある誰もが、志村喬演じる渡辺勘治が、公園のブランコに揺られながらこの歌を口ずさんでいるシーンを思い浮かべることだろう。

だが、この映画でもっと注目されてしかるべき劇中歌は、「ハッピーバースデー」の歌である。

先日、久しぶりに「生きる」を見て気がついた。

余命いくばくもない自分に絶望した渡辺勘治が、喫茶店の2階で女性と会食中、ふと、残り少ない人生で自分がなすべき仕事があることに気づく。

そのことに気づいた渡辺勘治は、喫茶店の階段を駈けおりてゆく。

それは、人生に絶望した彼が「生きる希望」を見つけた瞬間でもあった。

その時、ちょうど喫茶店に居合わせていた女学生たちが歌っていた歌が、「ハッピーバースデートゥユー」であった。

その歌にあわせて、渡辺勘治とすれ違いにひとりの女学生が階段を駈けのぼっていく。誕生日を祝福される主役である。だがその歌は、まるで「生きる希望」を見つけ、階段を駈けおりてゆく渡辺勘治をも同時に祝福しているようにも聞こえる。生まれ変わった渡辺勘治を祝福するかのように。

なるほど。そういう意味があったのか、やはり名画は何度でも見るものだな、と感心した。

ところで、「ハッピーバースデー」の歌で思い出した。

韓国滞在中、妻が疑問に思っていたことである。

韓国でもハッピーバースデーの歌は歌われる。だが、歌詞は英語ではなく、韓国語である。

なぜ、「ハッピーバースデー」の歌が、韓国では韓国語で歌われているのに、日本では日本語ではなく、英語で歌われるのだろう?それに、いったいいつ頃から、どういうルートで、この「ハッピーバースデー」の歌が、日本や韓国で歌われるようになったのだろう?

その疑問を思い出したのである。

少し調べてみると、「ハッピーバースデー」の歌は、どうやら1920年前後にアメリカで歌われるようになり、いまでは世界でもっとも歌われている歌としてギネスブックに登録されているらしい。そして英語圏以外の国では、自国語で歌う国と、英語で歌う国とがあるという。

その違いがなぜなのかについては、よくわからない。

さて、日本ではいつ頃から歌われるようになったのか?

1920年から1945年の敗戦の間に、この歌が日本で歌われるようになった、とは、どうも考えにくい。といっても、そう考える根拠はない。ただ、戦争中は、敵国の歌なので歌われなかったのではないか、と、想像するのみである。

とすれば、この歌は、占領期になって流布した歌だろうか?

映画「生きる」の公開は、1952年(昭和27年)10月9日である。ちなみにサンフランシスコ講和条約が発効し、日本が主権回復したのが同年の4月28日である。

ひょっとして、映画「生きる」は、日本で「ハッピーバースデー」の歌が歌われたことを確認できる、最古の資料なのではないか?

…などと想像するが、ほかに資料が出てきたら、あっけなく覆される仮説であろう。

しかし、調べてみる価値はありそうだ。

そして、韓国ではいつから「ハッピーバースデー」の歌が歌われたのであろうか?さらに、なぜ英語ではなく、韓国語なのか?

謎はつきない。

あるいは、もうとっくに解明されていて、私がたんに知らないだけかも知れない。

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コメント

 昨日のKBSドラマ「メリーは外泊中」を鑑賞中ですが、センイルの歌うたってますなあ。中国も歌詞は中国語ですねえ。なんで日本は英語で歌うのか、これは難問でわかりませんなあ。
 「「おにぎり」の歴史について古代から現代まで知りたい」が分かる、国会図書館レファレンス協同データベースにも載っていませんし、韓国版と英語版のウィキペディアにも載ってませんでした。大衆文化事典によると、日本の家庭で初一歳以外の誕生日を祝うようになったのは戦後とあり、バースディケーキの線から調べようと不二家のホームページを見たら、砂糖や小麦粉などの統制が解除された昭和25~27年頃からクリスマスケーキが急速に普及したようですので、実は「生きる」を撮影した頃が、誕生日に家庭でケーキを買って祝う習俗が流行し始めた時期で、だからこそ目新しいおしゃれな習慣として映画のシーンにとり入れたのかもしれません。その時点でローソクを吹き消す歌として、ハッピーバースデイが歌われるようになったのではないのかなあ。明治期とかでなく後から入ってきたから、訳さずに英語のままでも大衆に理解できたのかも(あくまで推測)。
 英語版ウィキによると、happy birthday ベースで自国語歌詞の誕生日歌が各国にいっぱいあるようで、日本で英語以外に「お誕生日の歌」があると書いてありますが、日本語歌詞はあまり聞きませんな。
 あと、韓国特有の三角帽子(昔日本ではクリスマスの時に被ったような)とか、ケーキを顔に塗る(中国でもやるらしい)とかも、どんな言われなんでしょう。誰か卒論で調べないかなあ?

そういえば、お友達の家でお誕生日会とかありましたなあ。

投稿: こぶぎ | 2010年11月17日 (水) 10時59分

さすがはこぶぎさん、打てば響くコメントありがとうございます。このブログの「最高顧問」の称号を差し上げましょう。「ハッピーバースデー」の謎については、もう少し調べてみます。お誕生日会、やりましたなあ。いまの子どもたちもやっているんでしょうか?

投稿: onigawaragonzou | 2010年11月18日 (木) 00時48分

私はこの歌を聴くたびに情けなくなってきます。何故、日本人は、母国語で、友人や家族の誕生日を祝うことをしないのか?未だに米国の植民地のままだからなのでしょうか?

投稿: ヤマノウエイクゾウ | 2015年7月14日 (火) 21時37分

「英語・韓国語・日語・中国語 単語発音の差異 4段」 
(2:17あたりから)
https://youtu.be/K_6_nH-feZE
中国の「ハッピーバースデー」は、人名を入れない


「韓国、米国、日本、中国 国別クリスマス文化」
https://youtu.be/FRzHeS54454
アメリカに「クリスマスケーキ」はない

この週末に韓国で有名な米国人ユーチューバーの番組「デイブの世界」を一気見しましたが、4人のクルー達のキャラクターバランスがとてもよくてお薦め。
仲良きことは美しきかな。
ちなみに僕は「バイ君」推しです。

投稿: World of Kobugi | 2018年5月21日 (月) 22時36分

このブログでもおなじみ、「第九のスズキさん」が、「第九と日本人」の研究のあとに取り組んでいたのが「クリスマスと日本人」でした。志半ばでこの世を去ってしまいましたが。
もう少しいろいろなことがわかれば、「誕生日の誕生」という本が書けるかも知れないと、いまでも思ってます。

投稿: onigawaragonzou | 2018年5月24日 (木) 00時39分

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