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「バブル期大学生」の文体

12月18日(土)

「面白いから読んだ方がいいよ」

と、先日東京に戻ったときに妻が貸してくれた本。

高野秀行『異国トーキョー漂流記』(集英社文庫)

失礼ながら、初めて聞く著者名である。

妻がすすめる本に、基本的にハズレはないのだが、初めて聞く著者名であることと、いま、韓国ドラマ「コンブエ シン(「勉強の神」、「ドラゴン桜}の韓国版ドラマ)」のDVDを毎日見ているので、この本は後回しになっていた。

そのことを妻に白状すると、

「考えられへん」

と怒られた。関西出身にもかかわらず関西弁が喋れない妻は、こういうときだけ関西弁になる。いまの学生言葉で言えば、

「マジ、ないわ~」

といったところであろうか。

なぜなら、「コンブエ シン」は、韓国滞在中、リアルタイムで見ていたドラマだったからである。韓国で見たドラマを、日本に戻ってDVDでくり返し見る、ということが、妻にとっては「考えられへん」ことなのである(これについては別の機会に書く)。

そんなのを見るくらいだったら、貸した本を読め、ということなのだろう。

これ以上引きのばすといよいよ怒られそうなので、今日の午前中、この本を読みはじめることにした。

読みながら、何度も吹き出しそうになった。以下、少しネタバレ。

1966年生まれの著者は、ほぼ私と同世代といってよい。大学時代、「探検部」というサークルに所属していた彼は、アフリカのコンゴという国に、「ムベンベ」という謎の怪獣を探しに行く、という壮大な計画を立てる。

…これだけでも、変わった人だなあ、と思うのだが、彼はこの計画を実行するためにまず、コンゴの公用語であるフランス語を学ぶことにするのだ。

さらには、コンゴとザイールの共通語であるリンガラ語を学んだり、アマゾン探検のためにスペイン語を学んだりと、日本にいていろいろな言語を習得するのである。

探検だけではない。学生時代、フランス文学科にいた彼は、コンゴ人が書いたフランス語の大河小説を日本語に翻訳し、それを「フランス文学」だと言いはって卒論を書き、見事卒業する、というはなれわざも見せる(のちにこれが日本で出版され話題になる)。うーむ。牧歌的な時代だったなあ。

その過程で知り合った、さまざまな国の人たちとの交流を描いたのが、この本である。海外での「異文化体験」ではなく、東京を舞台にした「異文化体験」である。外国人を通してみると、東京は「トーキョー」という異国の地になるのだ。

何なんだろう、このパワーは?それでいて、まったく肩ひじの張らない文章。読みながら思わずニヤリとして、最後にはいろいろなことを考えさせられる、という、笑いとペーソスが入りまじった構成。

これこそが、私が韓国語学院日記でめざしていた文体ではないか。というか、この世代特有の文体なのか?

もっとも、私の韓国留学日記などは、足もとにも及ばない。そもそも、経験のレベルが、まったく違うのだ。

同じ「バブル全盛期」を大学生として生きたのに、この違いは何なんだろう。

私の20代は、何とつまらなく、無為に過ごしてきたことか…。

ただ、いまのこのご時世で、こんな破天荒な大学生活を行うことは、まず無理なのではあるまいか。いまは、将来に対する漠然とした不安がある。だが、私たちの頃は、「ま、なんとかなるだろう」と思えたからこそ、「アフリカのコンゴに怪獣を探しに行く」などというバカバカしい計画を本気で立てることができたのかも知れない。そんな、バブル全盛期の大学時代のことを思い出させる。

著者略歴のところを見てみると、「2006年『ワセダ三畳青春記』で第1回酒飲み書店員大賞受賞」とある。

…「酒飲み書店員大賞」って、何?

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コメント

 バブル期のワセダ界隈の光景は、もう脳裏に染みついておりますので、この本を読んでみようと検索したら、県内では県都の市立図書館に一冊しかない。辺境作家にとって、こちらはさらに辺境だったようで。
 冒険家なんて職業も最近は聞かなくなりましたが、でもたった2年前、スペインの日本人専用安宿には、仕事を辞めて世界一周旅行中の日本人の若者が何人もいました。ボロい身なりに似合わず、しっかりノートパソコンを携行していて、チケットや宿を予約したり、旅行記をアップしていたのが今風でしたね。
 短波ラジオの雑音の彼方に耳を澄ませていた4半世紀前と、インターネット経由で韓国ドラマがリアルタイムでみれる今と、世界が近づいて思えたのは、一体どちらの時代だったのだろうか。

追伸:どうでもいいですが、映画「ノルウェーの森」にデモ隊が大学構内をジグザグ行進するシーンがありますが、ちょうどその当たりの場所は、かの昔、こぶぎが「寅次郎・サラダ記念日」のエキストラに勝手に紛れ込んで映画初デビューした思い出の地でもあります(本編では惜しくも全カット(泣))。ちなみに出演第2作目は言わずと知れた「スイングガールズ」で、こちらは後頭部と背中がしっかり写り込んでいます。

蛇足:酒飲み書店員大賞は、ホームページがありますよ。

投稿: こぶぎ | 2010年12月22日 (水) 03時13分

高野秀行氏の本は、こぶぎさんにこそオススメだと思いますよ。
「寅次郎サラダ記念日」で印象に残っているのは、やはり寅さんが大学構内をうろつくシーンですね。大学生役の尾美としのりに向かって寅さんが「天ぷら!」と言ったことや(最初このシーンを見たとき、「天ぷら」の意味がわかりませんでした)、教授役の三國一朗に代わって寅さんが講義をはじめるところは、映画の本筋とは関係ないのですが、なぜか面白かった。こぶぎさんがそこに出ていなかったのは、残念ですが。

投稿: onigawaragonzou | 2010年12月23日 (木) 00時56分

 その三國一郎が校舎から出る前後の、キャンパスに学生が闊歩するシーンが幻の出演シーンでした。渥美清はいませんでしたが、あの教室(3号館4階)でも実際に授業受けたことあります。
 さて、先日届いた少女時代の有明ショーケースDVDの客席シーンのみをコマ送りで凝視し続けたんですが、残念ながら少女時代との共演も幻となりました。1階左手最前列に陣取っていたんですが、3回公演の別の回が採用されたようです。そんなクリスマスの過ごし方。

投稿: こぶぎ | 2010年12月29日 (水) 04時32分

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