忘年会とヘジョンさん
私も妻も、他人様の家におじゃましたり、家に人を呼んだりするのが苦手である。
12月29日(水)
知り合いの研究者夫婦の先生がご自宅で主催する忘年会に招待された。妻が日頃お世話になっている先生であり、私も、日頃おつきあいはないものの、尊敬している研究者夫婦でもあるので、夫婦そろって参加することにした。
総勢20人くらいのにぎやかな忘年会である。私の大学時代の同期や後輩などにも久しぶりに会い、それなりに話がはずむ。座持ちの悪い私でも、韓国留学中の話が何度か間を持たせた。韓国に留学して、本当によかったと思う。
知り合いのデザイナーの方が設計したというオシャレなご自宅。そして、旦那さんが、お酒を飲みながら、自慢の料理をふるまう。
「まるで、タモリみたいだな…」
と、私と妻が顔を見合わす。別に、タモさんの家に呼ばれたことはないのだが。
ドイツの白ワインなんぞを飲みながら、久しぶりに会った1つ下の後輩と話をする。彼は、私が乗っている自動車よりも高価な自転車を持っている。趣味が自転車なのだ。
オシャレで、頭もよく、性格もいいのにもかかわらず、いまだ独身なのは、自転車にのめり込んでいるからかも知れない。
私が、スポーツクラブでエアロバイクをこいでいるのに全然痩せない、とこぼすと、彼がその話題に反応した。
「エアロバイクなんか全然ダメですよ。だいいち、景色も変わらないし、面白くもなんともないでしょう」
「そりゃそうだ。それに、頑張っても200カロリーくらいしか消費しないんだ」
「そんなの話になりません。3000カロリーくらい消費しないと」
すると彼は、自転車乗りにとって理想的なコースがどこかについて、熱く語り出す。「やっぱり、箱根とか、湘南なんかがいいですね。景色が飽きません」
それから、話題は自転車レースに移った。自転車レースが肉体・精神の両面でいかに過酷な競技かを、熱く語る。
「自転車レースは、人生の縮図なんです!」
「なるほど…。たしかにそうだ」私は彼の話術にすっかり魅了された。
「どうです、自転車をはじめてみませんか?」
いかん、このままでは、車より高い自転車を買わされそうだ、と思い、「そうだね。いずれまた考えてみるよ」とお茶を濁した。
だが、たしかに自転車は魅力的だなあ。
そんなこんなで、午後2時から始まった忘年会が、気がつくともう夜の9時半である。「よいお年を」とお別れして、2時間かけて、自宅に戻った。
妻も私もグッタリである。それなりに楽しかったが、やはり、他人様の家によばれることに慣れていないことを実感した。
12月31日(金)
昨年の韓国滞在中に、妻がヘジョンさんという韓国人と友達になった。日本語を勉強していて、日本に留学したい、という。20代半ばの、いかにも「今どきの女の子」といった感じの子である。
そのヘジョンさんが、今年の夏くらいだっただろうか、念願かなって、ようやく日本への語学留学が実現した。東京でアルバイトをしながら日本語学校に通うことになったのである。妻はヘジョンさんと再会し、たまに2人で食事に行くようになった。私が司会した音楽会にも聴きに来てくれたのだという。
「ヘジョンさんを大晦日に家に呼んで、ご飯を一緒に食べながら一緒に紅白歌合戦を見たらどうかな、と思うんだけど」妻が提案した。
「紅白歌合戦?」
「ヘジョンさん、嵐の大ファンなのよ。家にテレビもないって言うし」
なるほど。それはいい考えである。だいたい、留学している外国人にとっていちばん寂しいのは、たぶん年末年始である。韓国滞在中の昨年、私たちも、大邱に住むK先生夫婦の家に呼ばれて、年末年始を紅白歌合戦を見ながら過ごしたのだった。ヘジョンさんもきっと喜ぶだろう。それに、日本の年末年始の過ごし方を経験してもらう、いい機会でもある。幸いなことに、今年の紅白歌合戦の司会は、嵐である。
K先生夫婦が私たちにしてくれたことを、今度は私たちが、ヘジョンさんにしてあげるのだ。
さっそく晩ご飯の献立を考える。
「お好み焼きにするつもり」と妻。以前、今度お好み焼きをご馳走する、と約束していたらしい。
どうも私たちは、韓国人にお好み焼きをご馳走する機会が多い。例によって、「2.2.6」の法則で、お好み焼きの生地を作る。お好み焼きだけではつまらないので、焼きそばとおでんも作ることにした。まるで縁日の屋台である。
ヘジョンさんには6時すぎに家に来てもらい、お好み焼き、焼きそば、おでんを食べながら、紅白歌合戦を見る。もちろん、年越しそばも食べる。
まさか、2年連続で、紅白歌合戦をこんなに真剣に見るとは…。
それにしても、ヘジョンさんは、ジャニーズの事情に詳しい。テレビを見ながら、いろいろと説明してくれる。「大野君は、いつもあんな感じなんですよ」「嵐は大好きなんですけど、服装のセンスだけはイマイチなんですよねぇ」「この曲は、○○というバンドの人が作った曲です」等々。私はすっかり感心してしまった。
私も、ただ漫然と紅白を見ていたわけではない。じっと見ていて、あることに気がついた。
「あっ!」
「どうしたの?」と妻。
「AKB48の板野っていう人、KARAのク・ハラにそっくりだ!」
ちなみに言うが、私はAKB48のメンバーの名前も顔も、まったくわからない。紅白を見ていて、たまたまAKB48の1人に「板野」という名前のテロップが出ていたのを、見のがさなかったのである。
もうひとつちなみに言うと、私はKARAのメンバーの名前も顔も、まったくわからない。ただ、数日前にケーブルテレビで見ていた韓国KBS「芸能大賞」に、KARAのク・ハラという人が出ていたのを、たまたま覚えていただけである。
つまり、たまたま別の機会に一瞬だけ見た、それぞれのグループのうちの1人の顔を、「似ている!」と判断したのである。
するとヘジョンさんは驚いた様子で言った。
「そうです!韓国でもこの2人が似ているということがとても話題になっているんです!そのことをご存じでしたか?」
「いや、知らないよ。いまたまたま見ていてそう思ったんだ」
「すごいですね」
ヘジョンさんは驚いた、というより、呆れていたようだった。
これではまるで、完全なアイドルオタクではないか!というか、私にはそのセンスがあるのか?それとも刑事に向いているのか?
紅白歌合戦が終わると、当然、他局で放送されているジャニーズのアイドルたちによるカウントダウンライブにチャンネルを変えた。例年であれば、「ジルベスターコンサート」で年を越すのが楽しみなのに、ジャニーズで年越しなんて、生まれてはじめての経験である。
ところがこれが、けっこう見ていて楽しい。嵐の出番が終わり、ヘジョンさんが「もうチャンネル変えてもいいですよ」と言ってくれたのだが、「いやいや、いいんだ」といって、結局最後まで見てしまった。
たぶん、ヘジョンさんのなかでは、「アイドルオタクのヘンなキョスニム」と映ってしまったかも知れない。
翌朝、雑煮を食べたあと、みんなで家を出た。私たちは、私の実家に年始の挨拶に行かなければならないので、ヘジョンさんとはお別れである。
「たくさんのことを学びました。ありがとうございます」
「また遊びに来てください」駅でお別れした。
実家についたとたん、私は熱を出して寝込んでしまった。他人様の家におじゃましたり、家に人を呼んだりと、慣れないことをしたからだろうか。
やはり、慣れないことはするものではない。
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