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ダメ探偵の凡作推理

2月16日(水)

朝。

左足がまた少し痛くなってきたので、車で職場に向かう。

職場の狭い駐車場に入れようとしてバックから車庫入れをしたら、前のバンパーが柵にひっかかり、その上、タイヤが完全に雪道にとられて空回りして、どうにも身動きがとれなくなってしまった。おかげで、駐車場の道を完全にふさいでしまっている。どんなにアクセルを踏んでも、車はピクリとも動かない。勢いよく空回りしている前輪から、煙が出はじめた。

(こりゃまいったな。もうすぐ会議の時間なのに…)

途方に暮れていると、そこにベテランの同僚Aさんと学部長先生が通りかかった。

「手伝いましょう」

何とも恐縮する話だが、お二人に車を押してもらいながらアクセルを踏む。だがタイヤが空回りして全く動かない。

学部長先生が電話をしてくださり、やがて、事務長さんをはじめ、屈強な事務職員さんたちや老練な作業員さんたちも登場。見物人もふくめて、私の車のまわりはたちまち人だかりとなった。

総勢10数名のご協力で、なんとか車は動き出した。

「本当にありがとうございました」

何とか会議には間に合った。こんなことが、ひと冬に1度は必ずあるのだ。そのたびに、自分のでくのぼうぶりをのろってしまう。まったく、恥ずかしいことこの上ない。

午前から午後にかけて、いくつかの会議をこなす。

自称「探偵事務所」(研究室)にて。

「こんなことって、考えられます?」と依頼者K氏。

「考えられませんなあ」と私。

「私の方が、どうかしているんでしょうか?」

「うーん」私は否定も肯定もしなかった。「共謀どころか、同一人物説、ということですか。だとしたら、『落とした人物』がノコノコと会いに来ますかね。だって、昨日の今日ですよ」

「そうですよねえ。でもたしかに似てたんですよ…髪型は違ってましたけど」

「髪型を変えるまで手の込んだ細工をするんだとしたら、そうとうしたたかですよ」

「そうですよね。でもそういう感じの人物には全然みえなかったんです。あと、例のブツを見せたときに、その人物に聞いてみたんです。『なにか改竄されたところはないですか?』と」

「ふむふむ、それで?」

「そしたら、真っ先に『折り目がきっちりしすぎているのがおかしい』と言ったんです」

やはり折り目に注目して正解だったか。

「真っ先に折り目のことを認めた、というのは、どういうことなんでしょう?」

「うーむ。折り目について身に覚えがない、ということは、つまり『拾った人物』が折った、ということでしょうか。とすると、やはり同一人物ではない、ということになりますな。…待てよ。同一人物説に立てば、折り目のことを真っ先に認めることで疑われないように先手を打った、とも考えられる」

私にはもうわからなくなった。

「あ、それと『落とした人物』に会った時、思い出したんです。その人物はたしかにその場にいた、と。私、たしかに見ました」

「いたんですか!?」その瞬間、私の推理は、音を立てて崩れ去った。結局、私の推理は何ひとつ当たっていなかったのだ。

事件は意外な方向に!果たして二人は同一人物なのか?

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