ナム先生の日本語
昨年9月、韓国の語学院でお世話になったナム先生とオンニ(お姉さん)が日本に観光旅行にいらしたとき、1日だけ、浅草とお台場をご案内したことは、前に書いた。
先日、ナム先生のホームページに、その時の写真が、90枚ほどアップされていた。
ホームページには、写真1枚1枚の下に、ちょっとしたコメントを書く欄がある。それをつなぎ合わせれば、りっぱな旅行記になる。ナム先生の「東京旅行記」は、かなりの力作だった。
私たちは1日だけしかおつきあいしなかったが、90枚にわたる写真を順に見ていくことで、その前後の行程もよくわかるようになっている。
日本に到着そうそう、日本に住んでいるサチョンオンニ(いとこのお姉さん)の夫婦に連れられて、熱海の温泉に1泊したことや、そのあと東京に戻り、オンニと二人だけで新宿や渋谷を見てまわったことなど。
日本語が全くわからないお二人は、新宿から渋谷に行くのに、そうとう苦労したらしい。そのときの写真を見ると、「池袋駅」というホームの看板がみえる。ということは、山手線でまったく逆方向に向かってしまった、ということだな。
私たちと別れたあとのことも、写真を見ることで明らかになった。
原宿のレストランでハンバーガーを食べて、その後、原宿から渋谷まで歩き、渋谷駅でお別れした。ここまでは、前に書いた話。
だが写真を見て、衝撃の事実を知る。
お二人は、渋谷で別れたあと、今度はサチョンオンニ夫妻に、「刺身」「すし」「ラーメン」をたらふくごちそうになった、というのである。「夕食を2回食べました」とある。
うーむ。やはりハンバーガーは余計だったか、と猛省。
ところでその日の午前、私たちが浅草の仲見世を案内したときの写真の中に、千社札を買っている様子を写したものがあった。
そこで思い出した。あの時、私は「南」と書かれた千社札を見つけて、ナム先生に買ってさし上げたのだった。
ナム先生の姓は、漢字で書くと「南」なのである。
「見てください。ナム先生の姓がありますよ」と私。
「ほんとですね。日本語でなんと読むんですか?」とナム先生。
「ミナミです」
「ミナミ…」
たしかその時、こんなやりとりがあったと思う。
この写真のコメントには、次のようにあった。
「『南』は日本語で『ミナミ』と読むのだとキョスニムはおっしゃった。後ほどサトシから聞いた話では、私の名前を日本語でよむと『ミナミ ヒデサダ』になるという。 私のお気に入りの名前だ」
「サトシ」とは、ナム先生が語学院で教えている日本人学生のことであろう。
それにしても、ミナミヒデサダ、とは…?
ナム先生のお名前は、スジョンとおっしゃり、「秀貞」と書く。つまり名前を日本風に読めば、「ミナミヒデサダ」となるのである。
スジョン、というのは、韓国人の女性によくある名前である。ありふれた名前といってよい。3級6班の自己紹介のときに、先生は「スジョンはありふれた名前なので、気に入らないんです」とおっしゃっていた。
それに対して、日本語の「ミナミヒデサダ」という名前の響きは、新鮮だったのかもしれない。
しかし、「ミナミヒデサダ」は、どうみても、女性の名前というよりは、男性の名前である。それも、強そうな武将にありそうな名前ではないか。
しかし、お気に入りの名前に水をさすわけにもいかないので、このまま黙っていることにしよう。
さて、90枚の写真の中には、私と妻が雷門の前で並んで写っている写真が載っていた。
写真の下には韓国語で、
「今回の旅行で大変お世話になったご夫婦」
と書いてあった。そしてさらにその下には、日本語のひらがなで、
「どうも ありがとうございます!」
と書いてあった。
ナム先生が初めて書いた日本語である。
私はその下に、
「どういたしまして」
と日本語でコメントを書いた。
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