さばシチュー
3月15日(火)
午前から、職場に待機する。といっても、いろいろなことが気がかりで仕事が手につかない。
午前10時、仕事をしながら、韓国KBSで生放送している「日本大地震 私たちの愛を集めよう」という特別番組を見る。韓国全土で生放送されている番組を、インターネットで見ることができるのである。
KBSは韓国の国営放送。そのKBSで、およそ8時間にわたって、地震で被害にあった日本に募金する、というチャリティー番組が行われたのだ。
日本の24時間テレビのような感じで、韓国の主要都市に募金箱が置かれ、人々がならんで募金している。韓国人だけではなく、韓国に在住する日本人もインタビューに答えていた。なかには、被害の激しかった都市に実家のある人がいたりして、連絡できないことのもどかしさを韓国語で訴えていた。募金する人ひとりひとりが、日本へ激励のメッセージを送っている。
こういう番組をやっていることを、日本ではどれくらいの人が知っているのだろう。偽善といわれようが何だろうが関係なく、ちょっとうるっときた。
さて、夕方5時半すぎ。
学生のSさんが体調不良を訴えて、研究室にやってきた。Sさんは、地震以降、心労が重なっていたので、それが体調不良を引き起こしたのだろう。病院に何軒が電話をかけて、いまから診察してもらえるかを問い合わせた。すると、ある病院が、いまから行けば診察してくれるという。
だがその病院までは、少し距離がある。私はガソリン節約のために歩いて通勤しているので、車が使えない。困った。
するとSさんは、午前中に同僚のMさんの車で市役所に行ったという。Mさんなら、気心も知れているし、話のわかる人である。ダメもとで研究室に行ってみると、「お安いご用ですよ」という。
そこで、Mさんの車で、Sさんと病院に向かう。そして無事診察を終え、薬をもらって、職場に戻った。
Mさんの研究室に戻ると、Mさんの主宰する研究会の学生2人と、隣県から避難してきたという学生1人が、夕食を作っていた。その学生はここで夕食をとったあと、市内の避難所に泊まるのだという。
「一緒に夕食を食べていってくださいよ」とMさん。
ちょうど、炊飯器のご飯が炊きあがり、カセットコンロを使って作ったシチューができあがったところだった。お言葉に甘えて、夕食をいただくことにする。
「肉がなかったんで、代わりに缶詰のさばの水煮を入れました」
なるほど、「さばシチュー」か。
これがなかなか美味い。これ、売れるかもしれないぞ。
総勢6人での食事。考えてみれば、こんな大勢で食事をしたのは、先週の追いコン以来である。とくに地震以降は、ひとりで白飯にごま塩をかけて食べる生活が続いていたのだ。だからいっそう美味しく感じたのかもしれない。
食事をとりながらSさんが、4年生の先輩方がいかに可笑しな人たちであるかを、思い出し笑いしながら話した。私も負けずに、4年生ひとりひとりについて、おもしろ可笑しく話すと、Sさんはそれまでの心労を忘れたかのように大笑いした。周りの人たちも、それにつられて大笑いする。
避難所の生活も、十分な暖かさと十分な食事があれば、こんなふうに笑いあえることもあるのではないだろうか、と思った。
病院で診察を待っている間、Sさんは言った。
「この状況、いつまで続くんでしょうか…」
いつまで続くのだろう。私にもわからない。
だが、そういう状況だからこそ、ときに笑うことは大切なのだ。
桂枝雀師匠も言ってたではないか。「すべての笑いは、緊張と緩和から生まれる」と。
また明日もがんばろう。
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