温かいお茶
3月16日(水)
午前、職場に行こうと外に出ると、大雪である。
(何でこんなときに降るかなあ)
せっかく歩きやすかった路面が、また一面の雪に覆われていた。ふだんの倍の時間かかって、職場に到着した。
今日は、新しいことに挑戦する。それは、「研究室でお湯を沸かしてお茶を飲む」ということだ。
私はそもそも、温かいお茶を飲む習慣があまりない。それに加えて、研究室が散らかっているので、お湯を沸かすポットを置くスペースすらない。だから、もう何年も、自分の研究室で温かいお茶を飲んだことがなかったのだ。
だが、そうも言っていられなくなってきた。節電のため暖房をあまり使えないということになると、あとは身体の中から暖めるしかない。
さいわい、道具はそろっている。2、3カ月ほど前だったか、職場の廊下のゴミ置き場のところに、ポットが捨ててあった。ふつうに考えればゴミなのだが、そのポットには、「まだ使えます」と書いた紙が貼ってあった。
(まだ使えるのか…)
例によって私は、この先使うあてのないそのポットを、自分の研究室に持って帰ったのである。
それに、先週の卒論発表会のあと、4年生たちからもらったマグカップがある。このマグカップは、地震で本が散乱したあの研究室にあって、奇跡的に無傷だったのである。
先日、同僚からおみやげでもらった中国茶もある。あとは急須がそろえば、なんと贅沢な中国茶が飲めるのだ。
今日は急須がなかったので、さしあたりティーバッグのお茶ですませることにする。
お昼休み。家から持ってきた日の丸弁当を食べながら、温かいお茶を飲む。
うーむ。やはり温かいお茶はいいなあ。こんなことなら、もっと早く研究室で飲めるようにしておけばよかった。
お茶を飲んでいると、4年生3人が来た。A君と、Sさん(しっかり者の方)、そしてNさん(天然)である。
いま、卒業を控えている4年生には、ひとつの問題が起きている。
それは、住んでいるアパートをひきはらって新天地に引っ越さなければならないにもかかわらず、地震の影響で、引っ越しができるかどうかわからないことである。人手不足、交通網の遮断、そしてガソリンの枯渇など、さまざまな問題が背景にある。
大家さんにしてみれば、今度は新入生が入居してくるわけだから、4年生には予定通り出ていってもらいたいと思っている。だがそうなると、家具類や荷物の行き場がなくなってしまうのである。
「なんとか、一時的にでも家具や荷物を保管できる場所はないでしょうか?」とSさん。
うーむ。どうしたものか。たぶんこれは、この地域に下宿する4年生全員が抱えている問題だろう。
…と、ここで余震が起こった。
「あぶないから廊下に出よう」研究室から廊下に出た。
「いちおう、上の人に話してみるよ」と私。
「スモールライトがあればいいんですけどね」とSさん。
スモールライト?…ああ、ドラえもんのひみつ道具のことか。
「スモールライトがあれば、家具を手のひらに乗せて持っていけるんですけど」
またくだらない話がはじまったぞ。
「それか…」今度はNさん。
「自分自身が巨大になって、2歩くらいで実家につければいいと思いませんか?ドン、ドンって」
「それじゃあ、足跡で大きな穴ができてしまって、住民に迷惑だろ!」とA君が、わけのわからないツッコミを入れる。
「そりゃそうですね。アハハ、スミマセン」3人の笑い声が、節電中で真っ暗な廊下に響く。
あのねえ。昨日たしかに「こういう状況でも笑いは必要だ」とこの日記に書いたが、君たちは少し慎んだ方がいいよ。
「ささ、会議がはじまるんでね」と、私は3人の「ありもしない話」を打ち切った。
13時半から会議。
さながら「会議は踊る」といった感じである。え、こんなときにそんな議論?いま、もっと話し合わなきゃいけないことがあるんじゃないの?と思ったが、これ以上書くと愚痴になるからやめておこう。
会議が終わり、研究室に戻って、再び温かいお茶を飲む。やはり温かいお茶はいいなあ。
明日は、急須を持ってきて中国茶を入れよう。
こういう状況下では、1日にひとつずつ、楽しみを増やしていくとよい。
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