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新4年生の出発

4月19日(火)

午後、新4年生のSさんとMさんが久しぶりに研究室に来た。

地震が起こってからというもの、余震や原発事故に怯える毎日。何をしたらいいのかわからないまま、漫然と1日が過ぎていく。そんな日々が続いた、という。

「長い休みがこれほど楽しめなかったことはありません。こんなことなら、早く学校がはじまればいいのに、って思いました。いったい、この1カ月は何だったんでしょう」

そうだな。早く普通の生活に戻ることが、本当は一番大切なのだ。

1時間近くよもやま話をしていたが、印象的な話がいくつかあった。

「震災の後、まったく価値観が変わったんです」とSさん。

「それまで、自分はとにかく就活のことばかり考えていて、大きな企業とか、東京の企業とか、そういうところをめざして、片っ端から受けてみなきゃ、って思ってました。でも、いまは違います。どうしても地元に戻りたい。大企業とか、有名な企業とか、そんなこと関係なく、会社は小さくても、周りにいい人たちがいて、その中で自分が本当に役に立てるような仕事をしたい、そんなふうに考えが変わったんです。いままで私は、周りが全然見えてなかったんだと思います」故郷が被災したSさんは、そう言った。

本県出身のMさんも続けて言う。「私も、東京に行きたいとか、そんなこと、思わなくなりました。これから何十年も、こっちで働いて、できることなら被災地に税金を納めたい。だってテレビを見ていたら、私の住んでるところとよく似た方言を話す人たちが、被災者としてインタビューに答えているんですよ。ああ、やっぱり身近で起こったことなんだなって、実感したんです。私、あの地震の日のこと、一生忘れません」

方言は、地域を結びつける力を持っている。Mさんの言葉は、そのことを気づかせてくれた。

「ふたりとも、それほどまでに価値観が変わったんだから、この1カ月は決して無駄ではなかったんだと思うよ」と私。これは私自身に向けての言葉でもある。

「そうかも知れませんね」ふたりは答えた。

就職活動をしているふたりは、近く試験や面接がある、という。

「面接、うまくいくかどうか心配です」

「大丈夫。いま話してくれたことを、自分の言葉で率直に話すことができれば、きっとうまくいくでしょう」私はそう言った。

「そうですか。頑張ってみます」

ふたりは研究室をあとにした。

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