的はずれの映画評論
私は、映画やドラマを見ても、本筋とは全然関係ない場面が印象に残ったり、気に入ったりする。
韓流映画や韓流ドラマなどでも、「あの映画のこの場面が気に入ってる」とか、「あのドラマのこの場面が印象に残っている」などと妻に言うと、
「何で本筋とは関係ないそんな場面がいいのか、まったくわからん」と一蹴される始末。
だから私は映画評論家には絶対向いていない。だって、誰からも賛同を得られないんだもの。
たとえば、つい最近、DVDであらためて見なおした映画「男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花」。浅丘ルリ子がマドンナとなるリリー三部作(「寅次郎忘れな草」「寅次郎相合い傘」「寅次郎ハイビスカスの花」)の三作目。
やっぱりリリー三部作はいいねえ。どれも名作である。
しかし、この映画で私がいちばん好きな場面は、やはり本筋とは全然、まったく、何の関係もない場面なのである。
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冒頭の「とらや」のシーン。天気のいいのどかな日。
おいちゃん、おばちゃん、さくらが、とらやの店先で、「気候がよくなったから、温泉にでも行きたいねえ」なんて話をしている。
そこへ裏の印刷工場のタコ社長が、大きなため息をつきながらやってくる。
「アー、エライことになっちゃったよ。…とうとう税務署にバレちゃったよ」
「イヤだなあお前は。こっちがせっかく楽しい話してるのに」と呆れるおいちゃん。
タコ社長は深くうなだれている。
「たまにはカラッとした顔をしなさいよ。天気もいいんだしさあ」とおばちゃんも呆れ顔。
「どうしたの?何がバレたのよ」さくらがタコ社長に聞くと、
「ちょっとくらいならわからねえだろうと思ってさ、ごまかして申告したら、それが見つかって、追徴金が来たんだよ」と答える。
それを聞いたおいちゃん、「下手な細工するからだよ、お前は」と、タコ社長を指さして馬鹿にすると、
「人のことだと思ってこの野郎!」と、タコ社長がおいちゃんに食ってかかる。そして再びうなだれて、ため息をつきながら言う。
「…首でもくくりてえよ、ホントに。…世の中には何億円も平気でごまかしているやつがいるってのに、何でオレばっかり見つかるのかねえ…」ほとんど泣きそうである。
そこへ、裏の印刷工場で働く博(さくらの夫)がとらやに顔を出す。どうやら出かけるようである。
「どこ行くの?」とさくらが尋ねると、「小岩のキャバレー」と答える博。すると今度はおばちゃんが「あらヤだ。昼間っからそんなとこ行くの?」
それを聞いたタコ社長、「仕事だよ。できあがったチラしを届けてもらうんだよ」と説明。
「へえ、そんな仕事もするのかい」とおいちゃん。
「不景気ですからね、何しろ」と博はそう答えながら、印刷したチラシのうちの1枚を置いて、とらやを出ていく。
「ホステス募集」と書かれたチラシを見たおばちゃん。「日給1万円だって。いいお金とるんだねえ、あの人たちも」
「しかし、イヤな思いさせられるんだぞ」「着るものやお化粧代だって全部自分持ちよ、きっと」というおいちゃんやさくらの言葉に、おばちゃんも納得。「そうだねえ。ダンスなんかして、疲れるだろうしねえ」
そこで、さっきまでうなだれていたタコ社長が口を挟む。
「いやだねえおばちゃん。今どきのホステスはダンスなんかしないよ」と、急に元気になった様子。
「じゃあ、何するんだい?」おばちゃんがタコ社長に聞き返す。
「何するって言われても…(含み笑い)ムッフッフッフ…ちょっとご婦人方の前じゃ、説明できねえな、ウッヒャッヒャッヒャッ」と、何かを思い出したかのように、大口を開けてゲタゲタと笑いだすタコ社長。
「…社長、お前、首くくって死にたいといま言ったばかりだろ」と、おいちゃんがツッコみを入れる。
「なんだよ。イヤらしい笑い方して!」と、おばちゃんも呆れ顔。
「いや、おれだって好きでああいうところ行くんじゃなくって…、仕事でさあ…」とタコ社長が弁解するが、とりつく島もない。おいちゃんもおばちゃんも、呆れて仕事場に戻ってしまう。
再びため息をついてうなだれる社長。「さて、金策に行くか…。アー、イヤだイヤだ」といいながら、工場に戻っていく。
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…という場面。この映画の中で、この場面がいちばん好きなのである。
ほらね、「はぁ?」っていう感じでしょ?しかも、マドンナはおろか、寅さんすらまだ登場していないドアタマの場面である。ふつうに見た人は、まったく印象に残らない、どうでもいい場面である。
でもこの場面が好きなのは、ついさっきまで「首をくくって死にたい」と、うなだれていたタコ社長が、キャバレーの話になると、とたんに元気になり、大口を開けてゲタゲタ笑う、という、その「変わり身の早さ」が鮮やかに見られるからなのだ。
「人間って、そんなだよな」と、この場面を見るたびに思う。悲嘆に暮れたかと思うと、今度は、くだらないことに笑ったり、ときめいたりする。で、最後には、「あー、イヤだイヤだ」と言いながら、前に進んでいく。
この短い場面には、それが見事にあらわれているのだ!これぞ人間の営みではないか!
その意味で、私にとってタコ社長は、「ザ・人間」、つまり、人間の中の人間、なのである。あだ名はタコなんだが…。
ほーら。誰からも共感を得られない映画評論でしょう。やはり映画評論には向いていない。
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