笑点の奇跡
5月19日(木)
あいかわらず、咳が止まらない。止まらないどころか、授業中に学生がヒクほど咳き込み、学生たちの目はテンになっていた。
そんなことより、今日の夜は、桂歌丸師匠、高座60周年記念の落語会である!
落語を生で聞くなんて、何年ぶりだろう?10年はゆうに越えているかも知れない。
ゲストは林家たい平師匠である。つまり、笑点メンバーの競演でもある。
といっても、このところずっと、「笑点」を見ていない。私の中では、司会が三波伸介でなくなり、座布団運びが松崎真でなくなってから、すっかり「笑点」熱が冷めてしまった。
思春期くらいになって、巷に漫才ブームが起こったり、新しいお笑いが溢れたりするようになると、「笑点の笑いは古いしダサイ」などと考えるようになって、しだいに「笑点」を敬遠するようになった。
しかし、「笑点」とは不思議な番組である。県民会館に向かって歩いている途中で、こんなことを思い出した。
小学校の時、オリモ君という友だちがいた。オリモ君のお父さんは、小学校の先生をしていて、とてもマジメで、厳格な方だった。家に遊びに行って、お父さんがいたりすると、悪ふざけができない感じになるくらい、折り目正しくて、ちょっとこわい感じの印象があった。
オリモ君のお父さんは毎年夏になると、群馬県の霧積温泉というところに泊まりにいくのだが、なぜか私も、オリモ君と一緒に、毎年、霧積温泉に連れていってもらっていた。
ある夏の霧積温泉でのことである。
旅館の部屋でくつろいでいると、その厳格なオリモ君のお父さんが、「笑点がはじまるぞ」といって、テレビをつけた。そして、テレビの前で寝そべって、「笑点」を見はじめたのである。大喜利のコーナーになると、食い入るようにテレビを見つめた。
当時は小圓遊師匠の全盛期で、得意の「若旦那」キャラで、
「ボク、今まで箸より重い物を持ったことがないの~」
とかなんとか言うと、オリモ君のお父さんは
「ガハハハ、な~にキザなこと言ってんだよ!おんもしれえなあ」
とか、歌丸師匠と小圓遊師匠の例のバトルが始まると、
「ガハハハ、いいぞいいぞ、もっとやれ!」
とか、大笑いしながらテレビにツッコミを入れるのである。
ふだん、クスリとも笑わない厳格なお父さんが、笑点を見てゲラゲラ笑っていることに、私はショックを受けた。
(たしかに笑点は面白いが、そんな爆笑するほど面白いか?小圓遊が若旦那を気取ったり、歌丸と小圓遊が喧嘩したりするのは、演出だろうに…)
と、むしろ小学生の私の方が、一歩引いて見ていたくらいである。
「笑い」からいちばん遠い位置にいると思われるオリモ君のお父さんが、笑点に釘付けになり、人目もはばからず大笑いするのは、どうしてなんだろう。
その答えが、今日、出たような気がした。
いやあ、面白かった!1500人くらいいたお客さんが、すっかり、たい平師匠や歌丸師匠の芸に魅了されていたぞ!もちろん、私もである。
今日の演目は、次の通り。
一、対談(桂歌丸・林家たい平)
一、「浮世根問」 柳亭小痴楽
一、「不動坊」 林家たい平
一、「竹の水仙」 桂歌丸
20代の落語、40代の落語、70代の落語、それぞれ持ち味が違っていて、同じ落語というジャンルでも、こうも違うものか、と思わせる。
小痴楽さんは、20代前半らしい勢いのある落語。
今回、たい平師匠の落語をはじめて聞いたが、一瞬でファンになってしまった。私と年齢があまり変わらないが、1500人の客の心を一気につかむ立て板に水の話芸には、嫉妬すら感じた。ネタに入ると、良質のコメディを見るがごとき面白さ。授業で、あんな感じでしゃべれたら、絶対学生にウケるだろうなあ…。
そして歌丸師匠!一編の喜劇映画を見ているように、その世界に入り込んでしまった。それに、75歳であの滑舌のよさは半端ねえ!
たい平師匠も、歌丸師匠も、一瞬のうちに、1500人の観客を、自分の世界観の中に引きこんでしまう。私自身もどっぷりと、その世界観の中にひたってしまい、まんまとダマされてしまうのだ。
これだよ、これ!これこそ私のめざしていたものだ。よし、オレはたい平師匠みたいになるぞ!(また始まった)。
ということで、あっという間の2時間半。十分楽しませていただきました。
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