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ふたたびの蝶ネクタイ

5月3日(火)

高校のOBでつくる吹奏楽団の定期演奏会で、司会をやることになった。昨年の秋に続き、2回目である。

4月30日(土)にリハーサルのときに、ふと、「本番では原稿を持たずに、丸暗記してしゃべったらかっこいいだろうなあ」と思い、

「本番は、原稿を持たずに司会をしようと思う」と、運営担当のチエちゃんに話すと、

「何でそんなに自分でハードルをあげようとするんですか。例年通り原稿を読む形で大丈夫ですよ」

と、たしなめられた。同じことを家に帰ってから妻に言うと、やはり

「バッカじゃないの?そんな苦労しないで、原稿を読めばいいじゃん」

と呆れられる。

しかし私は、どうしても「題名の音楽会」の黛敏郎みたいな司会を、一度してみたいと思ったのだ。

ところが実際に練習してみると、これがなかなか覚えられない。私にとってなじみのない固有名詞が多すぎるからである。それに、年齢のせいもある。

「フィリップ・スパーク作曲の『オリエント急行』」「ナイジェル・ヘス作曲の『イーストコーストの風景』」など、作曲者と曲のタイトルは、自分にとってなじみの薄いものだし、曲の解説にしても、

「ロンドンヴィクトリア駅の賑わいからはじまり、車掌のホイッスル、蒸気機関車の汽笛やスチームの音を表現しながら、列車がヨーロッパの広大な平野や急峻な山々を走る様子が…」

とか、

「ニューヨークシティから車で数時間の小さな島、シェルターアイランドの、厳しくも楽しい冬の週末を描き…」

とか、

「ニューヨーク州北東部に位置するキャッツキル山脈の…」

など、やはりなじみのない固有名詞や、むずかしい言い回しが多い。

仮に覚えたとしても、本番では緊張して、セリフがとんでしまう可能性が高い。

ということで、あっさりと断念することにした。

「なあんだ。やっぱり原稿を読むんですか」と運営担当のチエちゃん。ああ、大口を叩くんじゃなかった…。

演奏会は3部形式に分かれ、私はこのうち1部と3部の司会をした(2部は司会なし)。

第1部は、フィリップ・スパーク作曲「オリエント急行」、保科洋作曲「風紋」、ナイジェル・ヘス作曲「イーストコーストの風景」

第2部は、フィリップ・スパーク作曲「宇宙の音楽」

第3部は、「ディズニー・メドレー」、「美女と野獣」、「私のお気に入り」、「モーニン」、「A列車で行こう」

さて、本番の出来は…

うーむ。やっぱり私がやるべきではなかったな。そもそも、私にはまるで華やかさがないのだ。それに、例によって、滑舌も悪いし声のトーンも低いので、いくら蝶ネクタイをしてごまかしても、クラーい感じになってしまう。

第3部のポップスステージでは、演奏者全員が「楽団オリジナルTシャツ」というラフな格好をして演奏をしているというのに、司会だけ黒いスーツに蝶ネクタイ、というのは、どう考えても雰囲気にそぐわない。

実際、演奏終了後にお客さんに書いてもらったアンケートには、

「なぜ司会者はTシャツを着ないのか」とか、「第3部の雰囲気と司会者が合わない。司会者が演奏会の空気をぶち壊している」など、かなり手厳しいコメントが書かれていた。

「男性だと聞きとりにくいので、司会は女性の方がいいです」という60代男性の感想もあった。

お客さんは、おっさんよりも、見た目や声が美しい女性の方を期待しているのだ。

(もう司会を2度とやることはないだろうな…)と思いながら、「打ち上げ」の席ではほとんど誰ともしゃべらず、ひとり凹んでいたのであった。

…だが、落ち込んでばかりいたわけではない。演奏会には、高校の同期のSとWが来てくれた。Sとは、あの「ミヤモトさんサミット」の議長である。それに、1学年下のモリカワさん、そしてオオキ、フジイさん夫婦も聞きに来てくれた。

演奏会が終わってから、「打ち上げ」がはじまるまで1時間ほど時間があったので、演奏会に参加した同期のフクザワやカトウさんも交えて、ちょっとした同窓会がはじまった。

まあそこで、いろいろと昔話に花が咲くわけだが、その中でも、私が大好きなエピソードがある。フクザワがよくする話である。

うちの同期は、どちらかというと硬派が多く、同じ部活の女子とふつうに話をするというのが、苦手な連中ばかりだった。なかでも、いちばん硬派だったのが、Wであった。

一方で、同期の男子の中で当時、女子と気兼ねなくしゃべっていたのが、フクザワであった。

高校2年の合宿の時、まじめなWが、フクザワに相談したという。

「女子に、どのように話しかけていいかわからない。教えてくれ」と。

当時、女子とふつうにコミュニケーションがとれていたのがフクザワくらいしかいなかったから、思いつめたWは、フクザワから、女子とのコミュニケーションのとり方を伝授してもらおう、と思ったわけである。

フクザワは、この時のことを鮮明に覚えているのだが、相談した当のWは、まったく覚えていないという。

さらに面白いことに、女子とのコミュニケーションのとり方がわからないと悩んでいたWが、同期の中でいちばん早くに結婚したのに対し、フクザワは、いまだ独身だというのだから、人生とは、本当にわからない。

ほかに、オオキとフジイさんのなれそめの話とか、モリカワさんのあいかわらず頓珍漢な話など。

あっという間の1時間だった。

この1時間が、この日でいちばん楽しかったな。

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コメント

聴きに来てくれた同期及び後輩の皆様、本当にどうもありがとうございました。また出演された同期のカトウさん、onigawaraさん、お疲れ様でした!onigawaraさんの司会業も板に付いてきましたね。アンケートの「Tシャツ着ないの?」や「雰囲気をぶち壊している」等については、あえて「司会者だけ一貫して妙にお堅い雰囲気」を狙っての、演出の一部ですから貴公が気に病む必要は一切ございません。また「雰囲気云々」を書かれた方は、同時に貴公が企画したインタビューコーナーが面白かったとも書いていたと記憶しているので、「雰囲気が微妙だからこその面白さ」という貴公が最も狙いそうな線が良く理解されていたのでは?と思っています。
という訳で次回も宜しくお願いしますね!!

投稿: フクザワ | 2011年5月 4日 (水) 13時59分

昨日はお疲れさまでした。一部の途中から三部の私のお気に入りまで聴かせていただきました(最後まで聴けず、すいません)。久しぶりに聴いたOBの演奏ですが、私が出ていた当時とは比べものにならないくらレベルが高く、びっくりいたしました。
途中のフクザワ先輩との掛け合い、楽しませていただきました。でも、先輩、結構緊張されていたのではないでしょうか?フクザワ先輩の司会というのもアリかもしれませんね。その時は、演奏を聴きながらではなく、演奏しながら司会をこなすといった感じでしょうか(^^)

投稿: ゴン | 2011年5月 4日 (水) 22時06分

フクザワへ。お疲れさまでした。いつもの「被害妄想」が出ただけなので、どうか気になさらずに。貴兄との掛け合いで会場を盛り上がらせることが夢だったので、それが実現できて私は満足でした。

ゴンちゃんへ。聴きに来てくれてありがとう。今度はフクザワに司会をお願いしたいので、貴兄からもぜひ説得してください(笑)。

投稿: onigawaragonzou | 2011年5月 4日 (水) 23時41分

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