復讐にはワルツが似合う
5月8日(日)
一昨日よりめずらしく風邪をひいてしまい、体調がすこぶる悪い。そこで、まったくわからない話を書く。
この大型連休中に、韓流ドラマ「魔王」全20話(オム・テウン、チェ・ジフンが出演、韓国で2007年に放映)を見終わった。
このドラマは、かなり完成度が高い。私がいままで見た韓流ドラマの中でも、屈指の名作である。
日本で、このドラマをリメイクしたくなる気持ちは、よくわかる。いままで、韓国のドラマを日本がリメイクしたものとしては、私の知るかぎり、「ホテリアー」(ペ・ヨンジュン、キム・スンウ、ソン・ユナが出演、韓国で2001年に放映)と「魔王」があるが、いずれも、韓国のドラマとしては、相当完成度の高いものである。リメイク版が成功したのかどうかは、リメイク版を見ていないのでわからない。
ただ「魔王」に関していえば、本家の韓国版を超えるようなものを作るのは、難しいのではなかろうか。
というのも、「魔王」は言ってみれば「復讐劇」であり、この「復讐劇」こそが、韓流映画や韓流ドラマにおける「お家芸」になっているからである。
たとえば韓国では、日本と同じように朝の連続ドラマが毎日放送されている。だがその内容は、日本とはまるで違う。多くはドロドロとした復讐劇である。しかも、1回の放送が15分などという短い時間ではなく、45分くらいの放送時間がある。つまり朝っぱらから、毎日、ドロドロとした復讐劇を見せつけられるのである。
もともと韓国では、「復讐劇」の裾野が広い、というか、層が厚いといえる。つまり、復讐劇はお手の物なのである。
復讐劇の特徴としては、「過去の秘密を明かさないまま周到で執拗な復讐がくり広げられ、ストーリーが展開していくにしたがい、次第に過去の秘密が明らかにされていく」というパターンが多い。
韓国映画界の巨匠・パク・チャヌク監督に、「復讐三部作」と呼ばれる作品がある。三部作の中でも日本の漫画が原作の「オールド・ボーイ」(韓国で2003年に公開、第57回カンヌ国際映画祭審査員特別グランプリ受賞)は、心臓をわしづかみにされるような、衝撃の傑作である。
韓国で東野圭吾原作の「白夜行」が映画化され(2009年公開)、あの長編小説を無理やり2時間におさめたとはいえ、それなりの完成度のものになったことは、復讐劇をお家芸とする韓国映画界だったからこそ、ではあるまいか。
「復讐」を主題にした日本の漫画や小説が映像化される際に、日本よりもむしろ韓国の方が完成度が高いものになることは、日韓の映像文化の違いを考えるうえで、興味深い問題である。
さて、これら良質な復讐劇に共通する、もうひとつの特徴がある。
それは、劇中に「ワルツ」が流れることである。
韓国映画「オールド・ボーイ」の劇中に流れる「Cries of Whispers」(イ・ジス作曲)、ラストに流れる「The Last Waltz」(シム・ヒョンジュン作曲)は、復讐する側とされる側のもつ「やるせなさ」を十二分に表現している名曲である。
韓国映画「白夜行」の劇中でも、「햇빛 속으로(日光の中へ) 」というワルツが、やるせない復讐劇を効果的に演出する。
ちなみに「オールド・ボーイ」と「白夜行」は、音楽監督が同じチョ・ヨンウクであり、劇中の音楽的世界観は驚くほど共通している。
韓国ドラマ「魔王」の劇中でも、もの悲しいワルツである「거짓된 사람들(偽りの人びと)」(イ・イム作曲)や、「빗의 수호자(光の守護者)」(ソ・ウンソク作曲)が、復讐者の悲しみを演出する。
「復讐劇」にワルツを効果的に用いる方法は、韓国の映画やドラマではいわばセオリーであるといってよい。復讐者のもっている「やるせなさ」や「むなしさ」を、効果的に表現する役割を果たしているのである。
やるせない復讐劇には、ワルツがよく似合う。
| 固定リンク
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- KOC雑感2024(2024.10.19)
- ドリーム(2024.10.01)
- わんだふるぷりきゅあ!ざ・むーびー!(2024.09.22)
- 団地のふたり(2024.09.16)
- きみの色(2024.09.08)
コメント