師弟の因縁
映画「男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎」(第27作、1981年公開)は、東京の喜劇と大阪の喜劇が融合した、不思議な名作である。
あらためて見返してみて、6代目笑福亭松鶴が出演していることに気づいた。映像で松鶴師匠の姿を見ることができるのは、今となってはかなり貴重である。
そして山田洋次監督の映画「おとうと」(2010年公開)には、松鶴の弟子の笑福亭鶴瓶が出演している。つまり、山田監督は、落語家・笑福亭松鶴を起用した約30年後、今度は弟子の笑福亭鶴瓶を起用しているのである。
この「おとうと」は、出来の悪い弟(笑福亭鶴瓶)を堅実な姉(吉永小百合)が見守るという物語で、「男はつらいよ」における、出来の悪い兄(渥美清)と堅実な妹(倍賞千恵子)の関係を逆にしたような話である。
作品自体も、「寅さん」をかなり意識して作られていると思う。とくに、前半の結婚式のシーンで、酒に酔った弟(鶴瓶)が、坂田三吉の物語を語り出すシーンは、「男はつらいよ」の作品に欠かせない「寅のアリア」を彷彿とさせる。山田監督は、笑福亭鶴瓶に渥美清をみていたのではないか。
対して鶴瓶は、かつて自分の師匠を起用したことのある山田監督の作品に、ある感慨をもって出演したのではないか、とも想像する。
ま、勝手な私の思いこみだが。
思いこみついでにいうと、この「浪花の恋の寅次郎」では、大阪の芸者・おふみ(松坂慶子)と、その弟のエピソードが盛り込まれている。ここでもまた、「姉と弟の悲しい別れ」がモチーフになっているのである。
「姉と弟の悲しい別れ」というモチーフ、そしてそこにかかわる、松鶴と鶴瓶の師弟。このふたつの作品が、不思議な因縁で結ばれていると考えるのは、あいかわらず私の悪い癖である。たぶんこんなことを考えているのは、世界で私だけかもしれない。
最後に、「浪花の恋の寅次郎」で印象的な寅次郎のセリフ。
「ま、オレみてえに、ガキの頃から悪いことばかりしている奴ぁ、どうせ大人になったって、ろくな人間になるわけはねえんだけど、…そんなオレがこうやって生きていて、まじめで将来性のある青年が早死にをする。…うまくいかねえなぁ世の中は」
この作品には、寅次郎の「人間に対する共感」が溢れている。
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コメント
先日Iさんの結婚式でお世話になりましたZです。話は変わりますが、先生ご執筆の児童書、拝読させていただきました。
最新の研究成果や地方の人々の生活まで網羅されていて、大学生の入門書とも言えるくらい詳しく記載されているように感じました。
久々に触れた歴史の空気に懐かしさを覚えました。ありがとうございました。
長文失礼しました
投稿: 江戸川 | 2011年7月21日 (木) 17時02分
私の本を担当した編集者2人は、つい最近、人事異動で他の部署に移られたそうです。たぶん、本の売れ行きが悪かったからでしょう。なんか申し訳ないことをしたなあ、と思いました(反省)。
投稿: onigawaragonzou | 2011年7月21日 (木) 23時43分