七夕の夕刻
7月7日(木)
午後、暑くて仕事にならない。頭がボーッとする。
夕方、いつものように作業場のある大学に向かう。4年生のT君も一緒である。
6時から作業をはじめると、次から次へと人が集まってきた。
「今日は人が多いですねえ」
はじめて参加する人も数人いた。社会人が増えてきたのである。
いつものように、井戸端会議をしながら作業をしていると、1時間くらいたった頃、雨がポツリポツリと降ってきた。
「ちょっと早いですけど、撤収しましょう」と、この作業を取り仕切っておられるYさん。
作業スペースが建物の外なので、雨が降ってくると、作業をやめなければならない。いつもなら1時間半くらい作業をするのだが、こればかりは仕方がない。
作業用の机や椅子をしまい、雨が小降りになるまで待機する。
「せっかく今日はたくさんの人が来たのに、1時間で終わりなんてもったいないですねえ」
「ま、こんな日もありますよ」
そうこうしているうちに、雨がほとんどやんでしまった。
建物の外に出ると、浴衣をきた女子学生が4人ほどやってきた。ふだんは作業に参加している学生たちだが、今日はなぜか浴衣を着ている。
「今日はお祭りか何かですか?」と聞くと、
「今日は七夕ですよ」という。
そうか。今日は七夕だったか。
七夕に降る雨を、催涙雨という。織姫と彦星が流す涙だという。
「じゃあ、七夕のお祭りか何か?」
「いえ、今日、浴衣を着て登校すると、アイスが100円で買えるんです」
「ええぇぇぇっ!それだけ?」
「はい」
アイスがタダになるわけではなく、100円で買えるというメリットだけなのか…。そのためだけに浴衣を着てくるとは、かえってコストがかかるんじゃないだろうか。
「せっかくですから、一緒に写真を撮ってもらったらどうです?」この活動の世話人代表のKさんが私に言った。
「いいですよそんな…」私は断った。汗だくのおじさんが浴衣姿の女子学生に囲まれて写真を撮るなんて、キモいと思われるだけである。
「でもこんな機会、今日くらいしかありませんよ。私、カメラ持ってきてますから」Kさんはすでにカメラを構えていた。私はしぶしぶ浴衣の4人組の真ん中に立った。
「ハイ、じゃあ撮りまーす。お、いいですねえ。まんざらでもないって顔してますよ。浴衣姿につられて、こちらの職場に転職しようなんて考えちゃいけませんよ」Kさんは私をからかった。
「何をバカな…」
パシャッ。
撮り終わって、恥ずかしくなり急いでその場から離れると、その様子をずっと見ていた4年生のT君が私に言った。
「先生、今までに見たことのない笑顔でしたよ」
「……」
そんな七夕の夕刻。
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コメント
午後1時。いつものように2年生ゼミの時間。
暑いからなのか、レジュメができてないからなのか。学生たちに、いつものように言いくるめられて、ゼミの時間に流し冷麺をすることにする。
「流しそうめん」ではない。毎年一回、この時期に箱を開けるタカラの流しそうめん機(往年の西新井の東京マリンを、緑色に塗装したような代物を想像されたい)に、盛岡冷麺を豪快に流すのである。
さすがに太麺、頂上の水車小屋の辺りでは流れないが、スロープに少し角度がついた部分で放つと面白いように流れる。
学生たちは、次に具材のサクランボ流しにかかる。さすがに水流では流れないが、丸いのでスロープの角度で転がり落ちる。これは相当の加速度だ。箸では掴めまい。
そんなこんなを、いつものように写真に収め、いつものように90分間が過ぎる。
片付けを終えてゼミの学生たちが退散すると入れ替わりに、2年前に卒業したゼミ生がひょっこり研究室にやって来る。
確か就職したはずだが、なぜか生後5ヶ月の我が子と一緒だ。僕の研究室には、布団とゴロ寝スペースが完備されているので、そこで赤ちゃんを寝かしつけるべく、抱っこしたり、あやしたりと大忙しで、大した話もできなかった。
ただ、震災をしゃれのめすために作った「愛の前立て」付きヘルメットをめざとく見つけ、「この研究室に来れば、何か面白い物が絶対あると思った」と言って、我が子に被せ、記念撮影して帰って行った。
2年間、こちらはたいした仕事もしないうちに、すっかり母の顔。
そんな、いつも通りの、2011年七夕の夕刻。
投稿: こぶぎ | 2011年7月29日 (金) 03時15分
それぞれがそれぞれの七夕を過ごしているのがおもしろいですなあ。それを「そんな七夕の夕刻」という言葉で締めると、なんとなく感傷的になるから不思議です。七夕といえばそうめん。すっかり忘れていました。
投稿: onigawaragonzou | 2011年7月29日 (金) 21時34分