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味のしない鰻丼

8月3日(水)

ひょんなことから、「場違いな会合」で、講話をすることになってしまった。

「場違いな会合」というのは、肩書きの立派な人たちばかりが集まる会合である。

私はつねひごろから、オッサンには「ガッハッハな人」と、「そうでない人」の2種類がいると思っている。当然私は、後者である。

で、こういった会合に参加される方は、たぶんみんな「ガッハッハな人」なんだろうな、と勝手に思いこんでいる。つまり、私がとても苦手なタイプである。

本来ならばお断りしたいところだったのだが、依頼をしてきた私と同世代のTさんという方が、「ガッハッハ」な感じがまるでなかったのと、「いちどガッハッハな世界をのぞいてみたい」という好奇心とから、お引き受けすることにした。

「場所はホテルの宴会場で行います。会合の時間は12時半から13時半までの1時間なのですが、最初の30分は、みなさんで一緒に食事をして、後半の30分で、先生にお話しいただきます」と、依頼人のTさん。ホテルで食事をしたあと講話をするなんて、ちょいとしたディナーショーならぬ、ランチショーである。

「そうしますと、私が話す時間は30分ですね」

「そうです。ひとつだけお願い申し上げたいのは、必ず13時半までに会合を終わらせなければなりませんので、時間厳守でお願いしたいということです」

「だいたい何人くらいの方がいらっしゃるのでしょうか」

「50人くらいだと思います」

50人の立派な方々の前でお話をするのか。

「12時頃に車でお迎えにあがります」という。

そして12時、職場の建物を出ると、前に大きな黒塗りの車が止まっていた。

「どうぞお乗りください」

いままでに乗ったことのない高級車に乗って、会場となるホテルまで移動する。これがじつに快適である。

(立派な方々は、毎日こんな車に乗っているのか…)

あっという間に会場に到着した。

宴会場にはいくつもの円卓があり、一番前に座らせられた。すでに多くの人がお見えになっている。

ビックリしたのは、うちの職場の社長、それに前社長までいるではないか。

(まいったなあ…)とたんに緊張した。

12時半に会合が始まる。まわりを見渡すと、明らかにご年配の立派な方々ばかりである。たぶん私が一番若い。

会合が始まると、いくつものセレモニーが行われる。そのどれもが私のような凡人には新鮮な、というより奇異なもので、記録にとどめておきたいのだが、差し障りがあるのでやめておく。

それにしても、いつまでたっても食事が出てこない。そうこうしているうちに、12時50分になった。私が講話をはじめる10分前である。

「あのう…」私は横にいたTさんに聞いた。「今日は時間が押しているんでしょうか?」

「いいえ、ふだん通りですよ」とTさん。

ようやくセレモニーが終わり、司会の方が言う。

「さてみなさんお待たせいたしました。今日のランチは鰻丼でございます!」

テーブルに鰻丼が並べられ、ようやく食事がはじまった。

うなぎは好物だが、なぜか全然味がしない。極度の緊張のためであろう。

しかも、13時半までに絶対にこの会合を終わらせなければならないと言われているので、私の講話を予定通り13時から始めるには、10分で鰻丼を平らげなければならないことになる。

まったく味を感じないまま、10分で鰻丼を平らげた。ほかの立派な方たちも、ふつうに鰻丼を10分で平らげていた。

なるほど、昔から「早メシ早○○、芸のうち」というが、出世するような人は、ご飯を食べるスピードが速いんだな、と実感した。

食べ終わるやいなや、私の講話がはじまる。講話のテーマは、最近私たちがとりくんでいる資料救済の活動についてである。

パワーポイントで画像を見せながら説明するが、極度の緊張で、口の中がビックリするほど乾いてしまい、うまく舌がまわらない。

今回の活動を通して学生をはじめとする若い世代がどれだけ真摯にとりくんでいるか、ということを具体的な体験を紹介しつつ説明していったのだが、この内容がご年配の「立派な方々」にどの程度伝わったのか、まったく見当もつかない。そもそもこういった問題にどの程度関心があるのかすら、あやしい。

たぶん、あまり伝わってないんだろうな、と思いながら、30分無我夢中で話し続けた。

そして最後に、作業に関わっている学生たちの写真を大きく映し出す。

「私が誇るべき学生たちです」

…万感の思いを込めて言ったつもりだが、あまり反応がない。やはり伝わらなかったか。私は、せっかく呼んでいただいたTさんに申し訳ないなあと思った。

でも、言いたいことを言ったから、よしとしよう。予定の30分があっという間に終わり、会合は終了した。

ひとつ言えることは、「私は絶対に出世するタイプではない」ということ。もう2度と呼ばれることはないだろうが、とても貴重な体験をさせていただきました。

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