電話災難
8月6日(土)
恒例の「演習の補講」の日。今学期は補講期間がないので、土曜日に補講をすることになった。休みにもかかわらず、学生たちには申し訳ないことをした。私の無能さをのろうばかりである。
ここ最近、なんとなく集中力を欠いているのは、歯が痛いからである。8月の後半から出張が続くため、いま治しておかないと大変なことになる。
「韓国に行く前に歯医者に行った方がいいよ。飛行機に乗ると、気圧の関係でものすごく歯が痛くなるよ」と、妻にも脅かされた。
結局、この一言が決め手になって、歯医者に行くことにした。
だがひとつ問題が。
かかりつけの歯医者に行くとなると、診察中にまたあの先生の、底の浅い政治談義を聞かされることになる。それを思うと、憂鬱でたまらないのである。
しかし背に腹は代えられない。ここはひとつ、あきらめるしかない。
ということで、補講の休憩時間に、予約の電話を入れることにした。
「…はい、もしもし」
お婆さんの声である。
「もしもし、あのう、○○歯科医院さんですか?」
「もしもし?」
「もしもし、○○歯科医院さんですか?」
「はい、そうですが」
明らかに、ご高齢のお婆さんが電話に出ている。ちょっと耳が遠い感じである。
「診療の予約をしたいんですが」
「えっ?」
「診療の予約です!」
「えっ?もしもし」
「よ・や・く!」
「あぁ、予約ですね」
ようやく聞こえたようである。
「何時頃になさいますか?」
「今日は何時まで診療しているんですか?」
「えっ?もしもし、もしもし、ちょっと電話が遠いんですが」
ちょっとこみ入ったフレーズを言うとすぐこうである。遠いのはあんたの耳の方ではないか、と思いつつ、大きめの声で言う。
「きこえますかぁ?」
「はぁ、聞こえました」
「なんじまでぇ、やってますかぁ?」
「あ、夕方6時頃までやってます」
「じゃあ、6時でお願いします」
「えっ?…あら、聞こえないわねえ」
「ろ・く・じ!」
「6時ですか?」
「はい」
「お名前は?」
そこで私は何度も自分の苗字を言ったが、やはり全然聞き取ってもらえない。わたしはすっかり意気消沈してしまった。
固定電話が悪いのかも知れないと思い、携帯電話でかけなおすことにした。
「すいません。いったん切って、またかけ直します」
「えっ?」
「かけなおします!」
「あ、タカハシさんですね」
タカハシさん???いったいどこをどう聞けば、「かけなおします」を「タカハシです」と聞き間違えるのだろう。私の苗字は、タカハシとは全然違うのだ。
「いいえ、違います!か・け・な・お・し・ま・す!」
「はい、タカハシさんね…。じゃあ下のお名前は?」
私は呆れて電話を切った。
携帯電話でもういちどかけ直すも、結果は同じ。電話のせいではなかった。それでも苦労して、なんとか苗字までは伝えることができた。
これは私の滑舌が悪いからなのか?あるいは私の声のトーンが聞きとりづらいのか?
そういえば、以前この歯医者に来たとき、受付にいたお婆さんが電話を受けながら、「えっ?えっ?」と何度も聞き返していた。あの婆さんだったか。
どうして耳の遠いお婆さんに電話番なんかさせたのだろう。
さて、夕方6時。歯医者に行くと、受付に誰もいない。奥で受付の婆さんの喋り声が聞こえる。
(なんだよ。患者が来たっていうのに…)
ふとみると、受付のテーブルに診察予約表がおいてあった。
見てみると、夕方6時のところに私のフルネームが書いてある。
(おかしいなあ。さっきの電話では苗字しか聞き取れなかったはずなのに…)
過去の診察記録から私だということがわかったらしい。
このお婆さん、ひょっとして有能な受付係なのかもしれない。
さて、例によって1時間ほど待たされて、診察がはじまる。今日は、歯医者の先生の「女性にモテた自慢話」を延々と聞かされた。私の最も苦手な話題である。
「はい、では口をお開きくださ~い」と歯医者の先生。
そんなことを言われても、あんたの話には閉口するよ。
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