しばらく旅に出ます
8月21日(日)
夕方、妻の同僚の家にお呼ばれしたので、二人で行くことにした。
妻の同僚のだんなさんがイスラム研究者で、「イラン風の煮込みシチュー」を作ってご馳走してくれるのだという。
基本的に妻も私も、友だちが極端に少ないので、他人様(ひとさま)の家に呼ばれるということはまずない。どちらかというと苦手でもあるのだが、私たちのような非社交的な人間をわざわざ呼んでくれることに感謝し、ご厚意に甘えることにした。
家に行くと、ほかに妻の同僚2人も来ていた。合計6人での会食だが、いずれも私の知っている人たちばかりだったので、気兼ねなくお喋りすることができた。
台所では、妻の同僚のだんなさんのMさんが、1人で黙々と料理を作っている。まるでタモリさんみたいだ。
海外に留学した経験のある人ばかりで、話題は自然と、異文化体験の話になる。とくに、食文化の違いや、研究の作法をめぐる違いは、汲めどつきぬ話題である。
Mさんの料理を堪能したあと、Mさんも交えてお酒を飲みながら話をする。
「国際学会で発表することって、世間的には評価が高いじゃないですか。でも、あんないいかげんなものはありません」とMさん。
これにはみんなが同意した。これは国際学会で発表した多くの研究者が感じていることではないだろうか。
Mさんは、中東で行われたある国際学会での体験を話した。
「以前、中東で行われた国際学会のセッション(分科会)に何気なく参加したときに、広い会場に聴衆が、中国人と、トルコ人と、私の3人しかいなかったんです」
「ほう」
「会場がそれだけ寂しいと、途中で抜けるわけにはいかないじゃないですか。仕方がないのでその会場で座っていると、発表者が冒頭で、『私はアラビア語が苦手なので、フランス語で発表をします』と突然言いだしたんです」
「ほう」
「それを聞いた途端、中国人とトルコ人が席を立って出ていっちゃった」
「じゃあ、その会場で残ったのは1人だけですか」
「ええ、私は出るタイミングを逸して、結局その場に残ることに…。フランス語はちょっとだけかじってましたから、幸い、言っている内容はなんとなくわかったんです」
それだけでも、けっこうすごい。
「でもそのセッションには、司会者も来なかったんですよ」
「ええぇぇっ!じゃあ1対1ですね」もはや学会の体をなしていない。
「そうです。で、その人は発表が終わると、じっとこちらを見ているので、そうなると質問しなければ収まりがつかないでしょう。仕方ないので、たどたどしいフランス語で質問したんです。あれにはまいりました」
私も韓国で似たような経験があったので、この気持ちはよくわかる。
「海外の学会に呼ばれて行く方はまだいいです。もっと大変なのは、海外から研究者をこちらに呼ぶ場合です。せっかく国際学会で招聘しても、ドタキャンされる場合がありますからね」
たしかにそういう話は、よく聞く。
「ギリギリまで来るか来ないかわからないんです。第一、『いつの飛行機で来るのか』と問い合わせても、なしのつぶてのことが結構あります」
「そうですか」
「こちらで国際学会をするために、中東のある国から研究者を呼んだときに、いつまでたっても連絡が来ないので、『これは得意のドタキャンか!?』と半ばあきらめていたら、学会の直前になって、自家用ジェット機で突然やってきたんです」
「ええぇぇっ!それはすごい話ですね。そんな突然なのに、空港もよく着陸を許可しましたねえ」
「そのときは国交省から外務省に問い合わせが行ったりして、まあ大変でした」
うーむ。スケールが違う。
ほかにも文化の違いに翻弄されるMさんの話を聞いたが、私はMさんがむしろそれを楽しんでいるように思えて、なんとなくうらやましかった。
私が韓国で体験したことなど、それに比べればスケールが小さい。
小さな違いにくよくよ悩んでいるようでは、異文化間のコミュニケーションなど、とれるはずもないのだ!
…というわけで、しばらく旅に出ます。久しぶりの韓国です!
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