アンニョン!留学生
9月22日(木)
韓国のZ大学から留学生が3人来ることになった。
本当は4月に来る予定だったのだが、震災の影響で、半年遅れて留学することになったのである。
「いよいよ22日に3人がこちらに来るので、駅まで迎えに行こうと思うのですが、先生はどうされますか?」3年生のOさんからメールが来た。
Oさんは先月、2週間ほど韓国のZ大学の短期研修に参加していた。今度来る3人のこともよく知っていたので、駅での出迎えをかってでてくれたのである。
「午後は予定が空いてますから、私も迎えに行きますよ」軽い気持ちで返事をした。本来、私にその義務はないのだが、留学初日というのは、誰でも不安なものであり、私もそれを身に染みてわかっていた。たとえ役に立たなくとも、1人でも多く出迎えの者がいた方が、留学生も安心だろうと思ったのである。
「2時50分にバスが着くそうです」
「どこに?」
「たぶん、駅前のロータリーだと思います」
うーむ。どうも不安である。長距離バスは、駅前のロータリーにとまるとは限らないからである。
職場を2時すぎに出て、Oさんと、すでに4月からこちらに留学しているイさんと3人で、駅前のロータリーで待つことにする。だが、待てど暮らせどバスが来ない。
不安になったので、駅の案内所に聞いてみた。
「あのう…、2時50分に到着する長距離バスは、どこでお客さんをおろすんでしょうか?」
「少々お待ち下さい」案内所の職員が、いろいろと調べてくれた。「駅前のロータリーじゃないですね。銀行の前です」
「そうですか」
あわてて、銀行まで移動する。
そのうちOさんのところに電話が来た。留学生からである。
「バスが遅れているそうです。到着は4時20分になるそうです」
台風の影響だろう。4時20分までドーナツ屋さんで時間をつぶし、再び銀行まで行くと、ちょうどバスが来ていた。
「オンニ(お姉さん)!」とOさんは、バスから降りてきた女の子に声をかけた。3人は無事到着したようである。
さっそく、留学生がこれから1年間生活する寄宿舎へと移動する。
寄宿舎に入ると、寄宿舎を取りしきっているMさんという女性の方が、3人の留学生に、寄宿舎での注意事項を説明した。
この寄宿舎には、世界各国から生活習慣の異なった留学生がやってくる。だから、最初にきっちりと、寄宿舎での規則を厳格に説明しておかなくてはならないのである。
そのうち、続々と留学生がやってくる。連れてきたのは、留学生担当の職員、Kさんである。
「お疲れさまです」
「このあと、また別の留学生を迎えに行かなくてはならないので、また戻ります」
「そうですか。今日は入居ラッシュなのですね」
「ええ、今日は全部で10人の留学生が来ることになっています。昨日来るはずの留学生も、台風の影響で今日来ることになったりして、何時に着くのかわからない学生もいるんです」
「連絡はとれないんですか?」
「ええ、とれない留学生もいるんです」
かなりテンパっているように見受けられた。
なにしろ、3年生のOさんや私まで留学生の出迎えに借り出されるくらいなのだから、うちの職場がいかに人手不足なのかがわかる。今日は留学生を迎える側にとって「てんてこ舞いの日」なのだ。
Mさんの説明がひととおり終わり、各自が部屋に荷物を置く。少し落ち着いてから、ちょっとしたものの買い出しに行く。
これは私の偏見かも知れないが、女子は、買い物をする時間が異常に長い。
洗濯洗剤1つ選ぶにも、匂いをクンクンかいだりして吟味している。
こっちからしたら、別に汚れが落ちればどれだっていいじゃん、と思うのだが、そういうわけにはいかないらしい。
そして選んだのが、「おしゃれ着洗い」の洗剤であった。
「これにするの?」
「ええ、匂いが気に入りました」
「でも、これは『おしゃれ着洗い』用の洗剤で、ふつうの洗剤ではないよ」
「え?そうなんですか?じゃあこっちかな…」
と手にとった洗剤もまた、「おしゃれ着洗い」の洗剤である。
「これも『おしゃれ着洗い』の洗剤だよ」
「そうですか…」どうやら、「おしゃれ着洗い」の洗剤の匂いが、いたく気に入ったらしい。
ようやく買い物が終わり、今度は近くのファミレスで夕食である。
このファミレスには、ドリンクバー、サラダバー、スープバーなどがある。
「ドリンクバーはドリンクが飲み放題、サラダバーはサラダが食べ放題、スープバーはスープが飲み放題という意味ですよ」
「じゃあ私、ドリンクバーにします」そういって注文した学生は、ドリンクバーから、3つのコップにそれぞれコーラ、カルピス、メロンソーダを入れて、テーブルに持ってきた。
そしてテーブルの上に、それぞれ色の違うジュースが入った3つのコップをならべたのである。
「それ…ダメだよ」
「どうしてです?飲み放題でしょう」
「たしかにそうだけど、コップは1人1つと決まっているんだよ」
「そうでしたか。飲みくらべようと思ったので…」
韓国には、日本のファミレスにあたるレストランがないので、私たちがあたりまえと思っているドリンクバーの作法1つとってみても、はじめてきた人にはわからないのである。
なるほどねえ。些細なところに、発見があるなあ。
そんなこんなで、夕食が終わり、寄宿舎まで送り届けたのが夜9時。
今日は長い1日だった。さて、彼女たちにとって、これからどんな1年になるのだろう。
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