猟奇的な院生
9月13日(火)
北海道といえば、ジンギスカン料理である。
この日の夕方、学生主催でバーベキューによる歓迎会を開いてくれることになっていた。なにしろここは、構内でバーベキューができるほど敷地が広いのだ。
ところが午後から雨が本降りになり、屋外でのバーベキューは中止になってしまった。
(やはり俺は雨男だったか…)。
「すいません。場所が建物内の学生研究室に変更になりました。ジンギスカンも中止です」とT先生。「そのかわり、私が先生にぜひ食べてもらおうと、○○の肉を手に入れました」
「○○の肉?」
「ええ、先日、知り合いの猟師が山で撃ったそうで、その肉を分けてもらったんです」
「私も北海道に長くいますが、○○の肉はまだ食べたことがありません」とS先生。聞いてみると、ほとんどの人がはじめてだという。
授業が終わり、学生研究室に行くと、すでに最年長のS先生が大きな肉の塊を包丁でスライスしていた。
「ずいぶん量がありますね」
「大きい塊で3つほどあるんですよ。全部切ってしまうと食べきれるかどうかわからないから、とりあえず2つだけスライスしましょう」とS先生。
スライスした肉を、家庭用のホットプレートで焼きはじめる。荒々しい野生の肉を、家庭用のホットプレートで焼くというのが、なんとなく可笑しい。
味付けは、K先生の担当である。
「ビールを入れたら、肉が軟らかくなるかも知れませんね」
たしかに赤身の引き締まった部分なので、固そうな感じである。
何度か味付けを試行錯誤しながら焼いていくうちに、ほどよい味になった。
思ったほどクセがなく、歯ごたえもあり、美味しい。
スライスした肉は、参加した15人くらいの人たちの間で、あっという間に平らげられてしまった。
そのほかに用意していたさまざまな料理も、すべてなくなった。
2次会は場所を移し、近くの居酒屋で夜11時近くまで美味しい日本酒を堪能した。
さて翌日。
気になったのは、最後に残った塊である。たしか昨日は、3つの塊のうち、2つだけをスライスして焼き肉にしたのである。
「残ったもうひとつの塊はどうしたの?」院生のSさんに聞いた。
「T先生があとで家に持って帰って料理するとおっしゃったので、とりあえず昨日は研究室の冷蔵庫に入れておいたんです」
私もそう聞いていた。Sさんが続けた。
「でも私、ビニール袋のジッパーをきちんとしめないまま冷蔵庫に入れてしまったみたいで、今朝、研究室の冷蔵庫をのぞいてみたら、肉からドリップ(肉汁)が大量に出ていて、『これはもうダメだな』と思って、処分してしまいました」
「処分?処分…って、捨てたってこと?」
「ええ」
「どこに?」
「構内のゴミ箱にです」
えええぇぇぇぇっ!!!大きな肉の塊だぞ!
「それ、大丈夫なの?もし他の人にでも発見されたりしたら、『この肉塊はもしや…猟奇的な事件では!?』と大騒ぎになるかも知れないよ」
「そうですね。『大学の構内で、大きな肉の塊が見つかった!』って、ニュースになるかも知れませんね」
「それでなくったって、最近はそんな事件が世間を賑わせたこともあったんだし」
「そうですね…。私、急に不安になってきました。大丈夫でしょうか?」
さてこの肉塊騒動。いまに至るまでニュースになっていないところを見ると、何ごともなくすんだようである。
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