感性と技術
10月7日(金)
秋は学園祭のシーズンである。
その学園祭に合わせて、日ごろやっているクリーニング作業の成果をパネル展示して、活動を広く知ってもらったらどうだろうか、と、世話人代表のKさんが提案したのが、1カ月ほど前のことであった。
パネル作りを担当することになったのが、うちの職場の同僚のSさんと、4年生のT君である。同僚のSさんはその道の専門家である。
パネル展示をする最初の学園祭が、10月8日(土)に、私の「前の職場」で行われる大学祭である。そのことに気がついたのは、5日前の10月3日(月)のことであった。
あと1週間もないではないか。
急いで展示パネル作成がはじまった。4年生のT君が6枚のパネルの原稿を考え、それを同僚のSさんが大型印刷機でポスター大にプリントアウトしたのが今日、すなわち金曜日の午前であった。
パネル原稿の出来は申し分がなかった。この間、私は何もしなかったが、わずか5日間で仕上げた2人の連携作業には、ただただ驚嘆するほかなかった。
午後、プリントアウトしたパネル原稿を、Sさんが50㎞離れた「私の前の職場」まで持っていく。そこで、パネルの飾りつけを行うのである。
私もその様子が少し気になったので、6時に職場の会議が終わってから、かけつけることにした。
夜7時半。車で1時間ほどかけて到着すると、まだ展示の準備作業が続いていた。
同僚のSさんのほかに、「前の職場」の同僚のKさん、世話人代表のKさんの「ダブルKさん」(「ダブル浅野」のような言い方だが)、さらには学生が15人ほどいて、作業をしていた。
「言ってみるもんですねえ」と世話人代表のKさんは感慨深げである。「まさかこんなちゃんとしたものになるとは思いませんでした」
「Kさんが軽はずみに提案したばっかりに、T君とSさんはえらく苦労したんですから」私は冗談交じりに言った。「何でも言ったことが実現するなんて思っちゃいけませんよ」
「すいません。ドラえもんの四次元ポケットのように、何でも実現できると思ってました」と、Kさんは頭をかいた。
それでも集まった学生たちは、次々と展示の工夫を凝らし、それをSさんはプロの技術で仕上げてゆく。
その連携が、見ていて実にすがすがしい。
午後10時ごろ、ようやく展示が完成した。
Sさんがライティングを工夫してくれたおかげで、6枚のパネルは、まるで美術作品のような趣をみせる。
見せ方ひとつで、こうも違うものか。なるほど、これがプロの技か、と感嘆した。
「すごいですねえ。ここまでできるんですねえ」世話人代表のKさんが感激して言った。「この次は映画を撮りましょう。私たちの活動をドキュメンタリー映画にしたらいいと思うんだけどなあ」
「だから軽はずみに提案するのはやめてくださいよ!」と私。うっかりKさんの軽はずみな提案にのるべきではないのだ。
「ささ、帰りましょう」
展示室を出て、大きな看板に目をやった。
「いいですねえ」
「これ、いいでしょう。この手作り感がいいんです。こういう展示の場合は、ただ洗練されているだけではダメなんです」
「なるほど。ひとりひとりが一文字ずつ書いているのが、クリーニング作業を象徴しているみたいでいいですね」
洗練されたプロの技術だけでは人の心は動かせない。感性を尊重する心がないと、人の心を揺さぶることはできない、ということなのだろう。
明日1日限りの展示に、果たしてどのくらいの人が見に来てくれるかはわからない。だが少なくとも、今日のこの展示作業に参加してくれた学生たちの心を揺さぶることはできたのだろうと思う。
それだけでも、この展示を行った意味は十分にあったといえるだろう。
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