「キョスニムと呼ばないで!」セカンドシーズン
10月22日(土)
大学祭1日目。
チヂミ屋台「キョスニムと呼ばないで!」は、無事開店した。
すでに学生たちの役割分担ができているようで、こちらの心配することではなかったようだ。
「韓国に詳しい先生の監修による、本格的なチヂミでーす!」3年生のN君が大声をはりあげて宣伝している。
「おいおい、まだ味見すらしていないぞ」と私。
「じゃあ、味見してみてください」
食べてみると、昨年とはだいぶ雰囲気が違っているが、これはこれで十分に美味しい。
例によって私が屋台にいてもなんの役にも立たないので、ぶらぶらと出かけることにする。
まず向かった先は、私が顧問をしている手芸サークルの、ホットケーキ屋さんである。
クマの形をしたホットケーキは、さすが手芸サークルらしく、かわいらしく仕上がっている。
せっかくなので1つ買って食べることにするが、いい歳をしたオッサンがこのホットケーキを汗をかきながら食べている姿は、たぶん外から見ていてかなりキモチワルイのではないか、と、また被害妄想にとらわれた。
次に向かった先は、音楽サークルのライブ会場である。
昨日の金曜日、授業が終わったあと、2年生のAさんが私のところに来た。
「これから明日の大学祭の準備なんです」
「何のサークル?」
「バンドです」
「じゃあ、ライブやるの?」
「ええ、先生も来てください。明日は11時頃にうちのバンドの演奏がはじまります」
「わかった。聞きに行きます」
ということで、聞きに行くことにしたのである。
ライブ会場に行くと、入口のところには、ビジュアル系バンドのような格好をした若者たちがたくさんいた。というか、ここはそういう若者たちが来る場所で、私のようなオッサンが来る場所ではない。
扉のところに、バンド出演のタイムテーブル表が貼ってあったが、Aさんのバンドの名前がわからない。
困ったなあ、と思って扉の前に立っていると、ビジュアル系の若者が話しかけてきた。
「どうぞ、中にお入りください」
「あのう、…いまどのバンドが演奏しているんですか?」
「これです」と、その若者はタイムテーブル表に書いてあるバンド名を指さした。「どれかお目当てのバンドでもあるんですか?」
「えーっと…、Aさんが出ているバンドはどれですか?」
「Aさん?…ああ、Kちゃんのことですね。それだったら、○○というバンドです。本当だったらいまそのバンドが演奏しているはずなんですが、いま、1時間押しで進んでいるので、演奏はまだですね」
「1時間押しですか…。とすると、そのバンドは1時間後に演奏する、ということですね」
「はい」
「わかりました」そう言って、私はライブ会場をあとにした。
あの若者は、私のことを何者だと思っただろう?とちょっと心配になった。ビジュアル系の若者たちが集う場に、なぜか汗をかいているオッサンが1人でやってきて、Aさんの出演時間を名指しで聞いてのを見て、Aさんにつきまとうオッサンストーカーだと思ったのではないか、と、またまた被害妄想がふくらんだ。
(どうにも入りづらいなあ)
しかし、約束は約束である。
1時間後に行こうと思ったが、つい話し込んだりしていて、ふたたびライブ会場に着いたのは1時すぎになってしまった。
例によってライブ会場の入口に行くと、ビジュアル系の若者たちがたくさんいた。
「どうぞ中にお入りください」
「あのう、…いまどのバンドが演奏しているんですか?」
「これです」と、その若者はタイムテーブル表に書いてあるバンド名を指さした。「どれかお目当てのバンドでもあるんですか?」
「○○というバンドなんですけど」
「あ、それもう、終わっちゃいましたね」
「ええぇぇ!終わっちゃったんですか!?」
「はい」
なんともタイミングが悪い。
仕方なくまたライブ会場をあとにした。
(あの若者、絶対オレのこと、Aさんにつきまとうヘンなオッサンだと思っているだろうな)
そう考えると、どんどん落ち込んだ。
というか、大学祭でウロウロと歩きまわっている私の姿は、どう見てもヘンである。
歩いていると、知っている学生に声をかけられ、そのたびにその店の食べ物を買うはめになる。おしるこ、肉まん、バーベキュー、クレープ、ラーメン…。すでにお腹いっぱいになってしまった。
午後、チヂミ屋台に戻ると、韓国からの留学生たちが、チヂミを焼いたり、呼び込みをしてくれたりして、手伝ってくれていた。
「チヂミイッソヨ!チヂミイッソヨ!」と、3年生のN君が大声で呼び込みをしている。
「チヂミイッソヨ」とは、韓国語で「チヂミあります」という意味である。
「どうしたの?急に」
「さっき、留学生の女の子に教えてもらったんです。チヂミイッソヨ!チヂミイッソヨ!」
「いま、留学生の女の子にチヂミを焼いてもらっているんですけど、焼き方がとっても上手なんですよ。やっぱり本場は違いますねえ」と、今度は3年生のUさん。
「明日、留学生たちがキンパプ(のり巻き)の屋台を出すそうだよ」
「ホントですか。じゃあ、絶対買いに行かなくちゃ」
ごく自然に、日韓の学生たちがとけこんでいる姿。
これこそが、私の望んでいた姿である。
夕方4時前に、今日準備していた分が売り切れた。
「今日はどうにか赤字にはなりませんでしたが、儲けはなかったですね。明日は、儲けが出るようにがんばりましょう」
3年生のN君が言った。
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