明洞(ミョンドン)の笑笑
10月14日(金)
夕方6時。いろいろと不十分なことばかりだったが、シンポジウムはひとまず終了した。
いつもそうなのだが、韓国では学会やシンポジウムが終わると、余韻にひたる余裕もなく、すぐに会場を追い出され、会食会場へ向かわなければならない。
「早く出てください!早く早く!」
せかされるように会場をあとにする。向かった先は、近くのサムギョプサルチプ(焼き肉屋さん)であった。
焼き肉屋さんに着くと、すでに多くの人が所狭しと座っている。
シンポジウム会場にはいなかった人たちも多くいる。会食にだけあらわれるという人が多いのも、韓国の学会の特徴である。いや、日本も似たようなものか。学会が、いかに人脈を大切にする世界かを思い知らされる。
そこで多くの韓国の知り合いの方たちと再会した。はじめてお会いした方たちとも、話が盛り上がった。
1次会が終わり、2次会はソウル随一の繁華街・明洞(ミョンドン)のスルチプ(居酒屋)である。店の前にテーブルをならべ、夜空の下で、日韓入り乱れての、15人くらいのにぎやかな宴会が始まる。
その2次会も、10時過ぎにお開きとなった。
ホテルに戻ろうとすると、日本から来たある先生が言う。「締めに麺が食べたい」
「麺ですか?」
「だって、酒を飲んだあとは麺だろう。何でもいいんだ。麺なら」
締めに麺を食べる習慣なんて、韓国にないのになあ、と思いながら、日ごろお世話になっている先生の希望なので、おろそかにするわけにもいかない。
明洞を探しまわると、中華料理屋を見つけた。
「あそこの中華料理屋に入りましょう」
「ラーメンがあるか?」
「韓国の中華料理屋は、ジャージャー麺かチャンポンと、相場が決まっています。ジャージャー麺は好き嫌いがあるでしょうから、少々辛いですがチャンポンの方がいいと思いますよ」
「じゃあそうしよう」
先生と私、そして日本から来た研究仲間2人の、計4人で中華料理屋に入った。
韓国の中華料理屋といえば、主なメニューは酢豚、ジャージャー麺、チャンポンの3つくらいしかないのだが、この店は、ややメニューが豊富である。
「あ、小龍包や水餃子がありますね。しかも美味しそうですよ」まわりの客が食べているのを見て、私が言った。
「じゃあ麺を食べる前に、それを頼もう」
小龍包と水餃子を食べながら話をしているうちに、「もう閉店ですよ」と、店の主人の声。
時計を見ると11時である。いつの間にかまわりの客も帰っていた。
結局、麺にたどりつけないまま、店を追い出された。
それでも先生は、麺を食べることをあきらめない。
「どこかほかにないかね」
ソウル随一の繁華街とはいえ、明洞は11時を過ぎると、とたんに寂しくなる。飲食店の多くが閉まり、賑やかだった屋台も店じまいして引き払ってしまうのである。
困ったなあ、と思いながら探し歩くと、「笑笑」の看板を発見した。日本の居酒屋チェーン店の「笑笑」である。
この「笑笑」の看板を韓国で見ると、まるでハングルのようにみえる。「笑」という漢字が、韓国語で「花」を意味する「꽃」になんとなく似ているのだ。
そんなことはともかく。
多くの飲食店が閉まっている中で、「笑笑」だけは開いていた。しかも店先のメニューを見ると、うどんの写真がある。
「先生!うどんがありますよ!」
ようやく探しあてた麺類である。
「よし、じゃあここにしよう」
ということで、「笑笑」に入ることになった。何でソウルまで来て、「笑笑」に入らなければならないんだろう、と思いながら。
店に入り、さっそく注文する。店員は、韓国人である。
「生ビール4つと、かき揚げうどん4つください」韓国語で注文する。
すると店員さんが韓国語で答えた。
「ご注文を繰り返します。生ビール4つと、かき揚げうどん4つですね」
韓国の食堂ではほとんどみられない「注文の復唱」である。このあたりのマニュアルは、日本の居酒屋と変わりない。
まわりの客は、ほとんどが日本人である。メニューも、日本のそれとさほど変わらない。
「まるで日本にいるみたいだな」と先生。そりゃそうだ。日本の居酒屋なんだもの。
30分ほどたって、ようやくうどんが来た。せっかちな韓国人にしては、ずいぶんとのんびり作ったたものだ。
うどんの味は「普通」だった。
シンポジウムの反省などしながら、ビールを飲み、うどんを食べているうちに、気がつくと深夜1時半をまわっていた。
「さ、帰ろう」ようやく「笑笑」を出て、ホテルに戻った。
長い1日だった。
…と、ここまで書いて気がついた。
焼き肉、ビール、焼酎、小龍包、水餃子、うどん…。
これだけ食べれば、そりゃあ、帰国後に右膝の痛みが再発するわな。
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