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ツッパリが死語ではなかった時代・2

ツッパリが死語ではなかった時代

11月17日(木)

「今日は、ボジョレー・ヌーボーの解禁日ですよ!」

「ワイン好き」を自認する人たちは、解禁になったボジョレー・ヌーボーを味わいに、ワインバーに行ったりするらしい。そしてワイングラスを片手に、小粋なトークをするのだろうか。

むろん、私はそのような小粋な人たちの集まりに誘われることはない。

「ワインと思い出は、寝かせるにかぎる」

ということで、ボージョレー・ヌーボーの解禁日は、ワインの栓ではなく、昔の「恥ずかしい思い出」の蓋を開けることにしている。

中学2年の1年間、生徒会長をやらされた、という話は前に書いた

私の通っていた中学校は、札付きの問題校で、総番、裏番、スケバンと、まるで不良中学生の見本市みたいな学校だった。

不良中学生たちのイタズラをざっとあげると、つぎのようなものである。

・授業中、火災報知器のボタンを押して非常ベルを鳴らす。

・廊下に消化器の消化剤を噴射する。

・休み時間に、トイレやベランダでタバコを吸う。

・ガラスを割る。

・校舎の外から、2階の職員室にめがけて生卵を投げる。

・午前中に給食室に忍び込んで、準備してあったみんなの給食を平らげてしまう。

・校庭に大きな穴を掘って、生徒たちが下校したのを見はからって全校生徒の上履きをその穴に埋める。

最後の「上履き事件」になると、それだけの労力を使って一体何をやりたかったのか、よくわからない。

厄介なことに、当時のツッパリたちは、それほど「中学校」に対して反抗していながらも、1日も欠席することなく、学校に通い続けていたのである。おそらく、ヒマだったのだろう。

何か事件がおこるたびに、私がかり出される。

「おまえ、生徒会長だろ?何とかしろよ」

生徒会長だから、見て見ぬふりはできない。休み時間、渋々と、ベランダでタバコを吸っている連中のところに行く。

「おい、いいかげん、やめろよ」

「よう!会長。おまえも一服どうだい」

「冗談じゃないよ!」

「ま、カタいこと言うなって」

ツッパリは私のことを、いちおう敬意を表して「会長」と呼ぶ。というか、たんにバカにされていただけかもしれない。ツッパリ連中の中には、私の幼なじみたちも多くいて、「生徒会長」と「ツッパリ」という関係が、何となく妙な感じだった。

火災報知器がイタズラされ、校内に非常ベルが鳴り響いたときは、その都度授業が中断され、体育館に全校生徒が集められる。先生のお説教と、犯人捜しが始まるのである。

「生徒会長からも呼びかけなさい」と、教頭先生が言う。

仕方がないので、壇上に立って、全校生徒700人の前でマイクで呼びかける。

「火災報知器を鳴らした人は、名乗り出てください!」

「名乗り出てください」と言って、名乗り出るヤツはいないだろう、と思いながらも、仕方なく叫び続けるのである。というか、犯人は、あの連中に決まっているのだ。

(あ~あ。なんで俺がこんなコトしなくちゃいけないんだ?)

私の前任の生徒会長が、金八先生に出てくるような、熱血生徒会長だったのに対して、私のやる気のなさは、教頭先生も見ぬいていたらしく、(こいつはダメだな)と、思っていたようである。

(こうなったら、「生徒会長」の地位を、徹底的に貶めてやろう)

私に妙な考えが浮かんだのは、中2の終わり、「3年生を送る会」という行事の準備が始まったころのことである。

全校生徒が体育館に集まって、卒業する3年生のために、1,2年生の各クラスが出しものをする、という行事である。

私のクラスは、演劇をやることになった。

演目は「白雪姫」。私は、「生徒会長だから」という理由で、一番最後に出てくる「王子様」役をやることになってしまった。

「普通に終わるんじゃつまらないよ」と私は、舞台監督のクロサワさんに言った。

「じゃあどうするの?」

「最後、白雪姫に口づけしようとしたら、変態と間違われてビンタされて、さめざめと泣く、というところで、幕を下ろすってのはどう?」

結局、私の提案が取り入れられた。

その瞬間から、「白雪姫」は、「コント白雪姫」に変わったのである。

本番の舞台。

「髭男爵」みたいな珍奇な衣装に身を包んだ、私こと王子様が、白雪姫を抱き上げて、口づけをしようとすると、突然、白雪姫が目覚める。

「何すんのよ!」

ビシッ!

白雪姫役のキタさんは、思いっきり私の横っ面をビンタした。その音は、体育館中に響き渡った。

そして私は、声を上げてわんわん泣く。思いっきりぶざまな姿で。

そこで幕が降りた。

幕の向こう側、つまり観客側は、ひと呼吸おいて、大爆笑になった。

当然、ツッパリ連中も、大爆笑していた。

(あの生徒会長、バッカじゃねえの)

誰もが、そう思ったに違いない。

私はそのとき、恥ずかしかったというよりも、なぜかホッとしたのである。

(つづく)

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