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クリスマスにはまだ早い

古い邦画の話ばかりで恐縮だが。

中学生の時の思い出の映画といえば、

そう!「戦メリ」である。

「戦メリ」…。ご存じない?

大島渚監督の「戦場のメリークリスマス」である。

私が中3の時に、友だちのヤマセ君と劇場に見に行った。

当時の中、高校生は、みんな劇場に見に行ったのではないだろうか。

なぜなら、当時絶大な人気を誇っていた坂本龍一やビートたけし、それに、デビッド・ボウイが出演していたからである!

とくに私は、当時YMOに心酔していたから、当然、教授(坂本龍一)の音楽目当てに、見に行ったのである。一緒に見に行ったヤマセ君もまた、YMOに心酔していた。

もちろん私は、当時男子中学生のほとんどが聴いていたという「ビートたけしのオールナイトニッポン」の一リスナーでもあった。

なによりビックリするのは、かつて「日本のヌーヴェルバーグの旗手」といわれた、難解な映画を作ることで有名なあの大島監督の映画を見に、中、高校生たちが劇場まで足を運んだ、という事実である。これは1つの、社会現象であった。

「映画、よかったなあ」

たぶん、中学3年の2人にとって、映画の内容は難解だったと思うのだが、我々からすれば、教授の音楽が聞ければそれで満足だったのである。

「戦メリ」はその後しばらく、クリスマスが近づくとテレビの「○曜ロードショー」といった番組で放映されて、一種の風物詩となった。

「戦メリ」のサントラも、当時、高く評価された。

サントラのレコードが発売されてからしばらくして、教授自身が編曲、演奏したサントラのピアノ・ヴァージョンの「カセットブック」が発売された。これもまた、話題になった。

私はこのテープを何度も何度も聞いた。

その後、今度はサントラのピアノヴァージョンの楽譜、というのが発売された。私が高校1年になってからのことである。

私は、「戦メリのテーマ」が弾けるようになりたい、と思って、楽譜を買って、練習することにした。

といっても私は、ピアノの素養があるわけではない。小学校低学年の頃、少しだけ、エレクトーン教室に通ったことがあるくらいである。

私は、小学生の時に使っていたエレクトーンを引っぱりだして、「戦メリ」を練習することにした。

ところが「戦メリ」の楽譜を見て驚いた。

フラット記号が5つもあって複雑すぎる上に、教授は左利きのせいか、左手の演奏部分がやけに難しく、それに加えてヘ音記号である。

(こりゃあ、ダメだな)と思いつつも、楽譜と格闘しながら、毎日何時間も練習した。

好きなものに対する情熱、というのは、すさまじいものである。最初は全然ムリだろうと思っていたものが、独学で練習を重ねていくうちに、だんだんと弾けるようになってくる。ついには、つっかえつっかえしながらも、最初から最後まで通すことができるようになったのである。

(今度、吹奏楽部の練習の時に、音楽室のピアノで弾いてみようかな。みんな、ビックリするだろうなあ)

そんなことを思っていた高1のある日、吹奏楽部の練習が始まるので音楽室に向かっていると、音楽室から「戦メリ」のメロディが聞こえてきた。

なんと、私と同期のO君が、じつになめらかに、「戦メリ」を弾いているではないか!

O君だけではない。W君もやはりなめらかに「戦メリ」のメロディを奏でているぞ!

うーむ。やはりみんな、練習していたのか。

…と、つまりそれくらい「戦メリ」の音楽は、当時の中、高校生に影響を与えたのである。

さて、それほど、中、高校生(とくに男子生徒)の心をガッチリわしづかみにした「戦メリ」だが、最近あらためて見返してみると、作品の完成度としては、じつはそれほど高くない。演出や演技も、必ずしもいいとはいえない。

とくに教授をはじめとする出演者の滑舌の悪さはひどく、何を喋っているのか、まったく聞き取れない部分もある。唯一、ビートたけしの演技だけは、出色の出来である。とくにラストシーンには、不覚にも泣かされる。この映画は、このラストシーンのためだけにあるような映画である。

当時、この作品がカンヌ映画祭に出品されたとき、私は本気で「これはグランプリ間違いなしだな」などと思っていた。だがこの時にグランプリを受賞したのは、今村昌平監督の「楢山節考」だった。

そのとき、なぜ「戦メリ」ではなく「楢山節考」がグランプリなのか、不思議でならなかったのだが、おそらく、「楢山節考」の方が、演出も丁寧で、映画としても完成度が高かったんだろうな、と、今にしてみれば思う。もっとも、「楢山節考」を見ているわけではないのだが。

そう、あのときボクたちは、「戦メリ熱病」に冒されていたのだ。

いまの私には、ピアノを弾いたことのない私が「戦メリ」のテーマ曲を必死で練習していたあの頃と、それまで「演じる」経験のなかった教授が必死にセリフを喋っている姿が、ダブってみえるのである。

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