ハンカチ刑事
ラジオを聞いていたら、鈴木ヒロミツの歌「でも、何かが違う」が流れてきた。
私と同世代のラジオDJが、「子どものころに、刑事ドラマのエンディングで流れていた歌だが、今でもたまにこの歌が頭の中で流れることがある」といって、かけた曲である。
これを聞いて、ビックリした。
私も、今でもたまにこの「でも、何かが違う」という曲が、頭の中で流れることがあるからである。
すげえ懐かしいなあ。35年くらい前の歌だ。
そのラジオDJは、「ヒロミツさんの歌は今聞いてもいい歌が多い。それがあまり評価されなかったのは、顔で損をしていたからではないか」と言っていたが、なるほどそうかも知れない、と思う。
日本の正統派ロックのヴォーカルとして稀有な存在だったと思うのだが、お世辞にもかっこいいとはいえない。どちらかと言えば、「味のある」存在である。
「でも、何かが違う」という歌は、「夜明けの刑事」というドラマのエンディングで流れていた。私は小学生のころ、この「夜明けの刑事」と、その続編ともいうべき「明日の刑事」が、大好きだった。
ちなみに「明日の刑事」のエンディングではやはり鈴木ヒロミツの「愛に野菊を」という歌が使われた。こちらも名曲である。当時はこちらの方が好きだったが、いつまでも脳内に残り続けたのは、なぜか「でも、何かが違う」の方だった。
当時は刑事ドラマブームで、多くの子どもたちは「太陽にほえろ!」が好きだったのだと思うが、私は「太陽にほえろ!」をほとんど見ていない。それは、同時刻に裏番組で「新日本プロレス」の中継をやっていて、プロレスが好きだった祖母が、この時間だけはチャンネルを独占していたからである。だから私は「金八先生」も見ていないのだ。
そんなことはともかく、私はこのかなり地味な「夜明けの刑事」「明日の刑事」のシリーズが好きだったのである。
このシリーズの主演は坂上二郎、そして、その脇を鈴木ヒロミツがつとめていた。今から思えば、じつに地味なコンビである。
坂上二郎演ずるたたき上げの人情派刑事、鈴木ヒロミツ演ずる不器用でぶざまな若手刑事、という組み合わせは、どう考えても地味である。
私が今でもそういう人間に憧れるのは、どうやら、子どものころに見たこのドラマが影響を与えているらしいことに気づく。
そう思うと今、むしょうにこのドラマを見たくなってきた。
だが、残念なことにこのドラマはソフト化されていない。そこで、インターネットで流れている動画を探してみると、オープニングやエンディングの映像だけは、探すことができた。
そうそう、これこれ。思い出したぞ!
「愛に野菊を」も、久しぶりに聴いたなあ。
…などと思い出に浸りながら見ていると、あることに気づいた。
ドラマのオープニングやエンディングで、坂上二郎が歩くシーンがある。というか、このオープニングとエンディングは、二郎さんのプロモーションビデオか!と思うくらいに、二郎さんをフィーチャーしているのだが、そこで二郎さんは必ず、片手にハンカチを握っていて、常にそれで顔の汗を拭きながら、歩いているのである。
それで思い出した。
ドラマの中で、二郎さんはいつも大汗をかいていて、聞き込み捜査のときも、片時もハンカチ離さずに、常に顔の汗を拭いながら歩いていた。
刑事ドラマに出てくる刑事で、これほど汗かきの刑事は見たことがない。ふつう、刑事ドラマの刑事は、ハンカチで顔の汗を拭ったりしないのだ。なぜなら、かっこわるいから。たぶん、この当時の価値観として、「いい男が、ハンカチで顔を拭うなんてみっともない」というヘンな美学のようなものがあったのかも知れない。「ハンカチ王子」などといって、ハンカチで顔を拭う男子が絶賛されるようになるのは、最近になってからである。
だが二郎さんは、ビックリするくらいに、遠慮なく顔の汗をハンカチで何度も拭っているのである。つまり、元祖「ハンカチ王子」ならぬ、「ハンカチ刑事」である。
たぶんこんなところに目が行くのは、私自身が、ビックリするくらい汗かきだからであろう。
(二郎さんわかるよ。聞き込み捜査で歩きまわると、汗が止まらなくなるもんだよな…)
「汗かき」は、「汗かき」の気持ちがわかるのである。
それでまた気づいた。
二郎さんが歩きながら顔の汗を拭う仕草は、今の私そのものである。
私をよく知る人はご存じの通り、私は無類の汗かきである。夏場には、常に片手にハンドタオルを持ち、顔の汗を拭いながら歩いているのだ。まさに、「夜明けの刑事」「明日の刑事」の二郎さんと、同じ仕草である。
そうか。今の私は、あのときの二郎さんなのか。
やはり私の原体験は、「夜明けの刑事」「明日の刑事」なのだ。
ますます、ドラマを見てみたくなった。
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