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アサカワ君とジロー君

チェ・ミンシク主演の映画「春が来れば」を見て、思い出したことがあった。

高校時代の吹奏楽部の後輩、アサカワとジローのことである。

アサカワは私より1学年下、ジローは2学年下である。

先日の忘年会で、久しぶりに会った。

二人は高校卒業後、それぞれの大学でジャズ研究会に入り、卒業後は、ずーっと音楽を続けている。

彼らによれば、大学卒業後、音楽を続けたのは、先輩である、私とコバヤシの影響があるのだという。

たぶん、「好きな道を続けなさい」とか何とか、言ったんだと思う。私はあまり覚えていないが。

結果、二人は好きな道を続けることになった。

ただ、今のところそれほど有名ではないし、音楽で飯を食っている、という感じでもない。

小さなライブハウスで演奏したり、路上ライブをしたりすることもあるようだ。

ジローは、路上ライブをしているときに熱心に聞きに来ていた女性ファンと、数年前に結婚した。

今はとあるバンドの一員で、CDを何枚か出している。

この前の忘年会に自分のCDを何枚か持ってきた。

「買うよ。その代わりサインしてくれよ」

CD2枚を買って、サインをしてもらった。

「前に、漫画家のU先生がCDデビューを出したときに、一緒にレコーディングしたんです」とジロー。

「ええええぇぇぇぇっ!あの『マスターキートン』を書いた人?」

「そうです」

バックで演奏したらしい。

うらやましい。U先生なんて、私なんか逆立ちしても会えない人だ。

さて、もうひとりのアサカワ。

大学時代にジャズ研に入っていたが、その後、ボサノヴァに目覚め、ブラジルによく行ったりしている。ジローよりも彼の方が、文字通りフーテンである。

どうやって稼いでいるんだろう。

「いま何してるの?」

「電話のオペレーターのバイトです。でも1月末に契約が切れるんで、そのあとはわかりません」

相変わらずである。

「東京に、川を埋め立てて作った道があるんですよ。最近は、その川のあとをずーっと追っかけて歩いたりしています」

そういうと、写真を見せてくれた。

よく、鉄道の廃線跡をたどる趣味の人がいるでしょう。あれと同じ感じで、「廃川」の跡をたどるのが趣味らしい。

時間が有り余っているんだろうな。

「そうそう、この前、タモさんとお話ししましたよ」とアサカワ。

「えええぇぇぇっ!!!タモさんって、タモリさんのこと?」

「そうです」

「何でまた?」

「タモさん、大学のジャズ研の大先輩なんですよ。で、この前歴代のジャーマネ(マネージャー)の集まりがあって、そこに来ていたんです。とてもいい人でしたよ」

そういうと、ツーショットの写真を見せてくれた。

う、うらやましい…。

タモリさんなんて、逆立ちしたって会えないぞ。

つくづく考える。

幸せな生き方とは、何なのか?

二人は、大学を卒業してから、自分の好きな道を歩んだ。

収入は不安定だが、20年経ったいまも、なんとかやっている。好きなことを続けながら。

有名になる保証もないし、好きな音楽だけで飯が食えているわけでもないのだが、それでも続けている。

私があのとき、いたずらに「好きな道を続けた方がいい」と言ったことは、はたしてよかったのか、悪かったのか。

…そんなことを考えていると、アサカワが言った。

「先輩、AKO47って、知ってますか?」

「なんだいそれ。AKB48なら聞いたことがあるぞ」

「違います。AKO47ですよ」

「知らないなあ」

「赤穂浪士四十七士のことです」

「くだらなすぎるよ!」

やっぱり、幸せなやつだ。

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