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上野の森に「あいつ」がやってきた

1月22日(日)

上野の森に、中国から「あいつ」がやってきた。日本初上陸である。

正月2日から、今度の火曜日まで見ることができるという。

先日、正月休みに見に行こうと、妻に提案したが、

「バッカじゃないの。正月の2日とか3日なんていったら、混んでいて見られるわけないじゃないの」と一蹴され、諦めた。

この週末が、私にとってのラストチャンスである。

「日曜日に見に行きたいんだが」と、ふたたび妻に提案すると、

「この前、平日の水曜日の午前中に、後輩たちが見に行ったんだって」

「ほう」

「そしたら、240分待ちだったって」

に、240分待ち???

「ふつう、『240分待ち』だなんて言われても、実際には意外とスムーズに列が進んで、それほど待たされなかった、なんてことがあるでしょう」

「うん」

「でも、そのときはその通り『240分待ち』だったんだって」

「平日に?」

「そう。開館前から並んでいたそうなんだけど…。そうそう、『240分待ち』っていったって、建物に入ってからの待ち時間ね」

「どういうこと?」

「外で待っている時間は別。それは70分待ち」

な、70分待ち???

「つまり、キンキンに冷えた外で70分待って、それから建物の中で240分待つ、ということ」

妻は、明らかに行きたくなさそうである。

「それに、聞いた話では、『それ』はガラスケースの中にあって、小さくてよく見えないし、しかも係の人がトラメガ(トランジスタ・メガホン)で『立ち止まらないでくださーい』と叫んでいるから、立ち止まったら怒られるみたいよ」

うーむ。これではまるで、日本に初めて来たときのパンダと同じではないか。

私が小学生のころ、上野の森に初めてパンダがやってきた。

そのときも、ビックリするくらいの行列ができて、ずいぶん長い間待たされた記憶がある。係の人が「立ち止まらないでくださーい」とトラメガで叫ぶから、止まらずにパンダをチラ見しただけだったのだが、パンダは遠くの方にいて、やる気のなさそうな感じだったし、なんだかよくわからなかったことを思い出した。

あと、大阪万博の時の「月の石」ね。こちらの方は、私がまだ生まれて間もないころなので記憶はないが。

「どうするの?行くつもりなの?」

「そうねえ。せっかくだからねえ」と私。

「たんに並んで見に行ったことを自慢したいだけなんじゃないの。見に行った後輩たちもそんな感じだったし」

いつもながら図星である。

「どうしようかなあ」例によって私が迷っていると、

「私は行きませんけど、行きたいのなら、どうぞおひとりで行ってください。ま、考えようによっては、建物の中で240分待たされるのにくらべると、東京でこの冬いちばんの寒さといわれているこの週末に、外ではたった70分しか待たされないんだし」

「たった70分しか待たされないんだし」という逆説的な言い方が、ズキっと心に突き刺さる。

「それに、やっと目の前に来たと思ったら、立ち止まらずにさーっと見ることができるんだからねえ」

ま、結局は「行くな」ということである。

「ちなみに、正月の2日と3日は、ほとんど並ばずに見られたらしいよ」

ええええぇぇぇぇっ!

ということで、見に行くことを諦めた、というお話でございました。

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