灰色の男、羊の木
1月26日(木)
東京で学生をしていたころ、「シティボーイズ」という3人組のコントライブを、よく見に行っていた。
若い人は、「シティボーイズ」なんていったって、わからないだろうな。
大竹まこと、きたろう、斉木しげる、というおじさん3人組のコントグループである。
まだ20代のころ、「けったいなおじさんたちがいるもんだ」と思っていたが、いまや私も、そのころの3人の年齢になっていて、十分に「けったいなおじさん」である。
私が好きなコントに、「灰色の男」と題するものがある。
ある団地に、「幼女誘拐殺人」の容疑者として逮捕された一人の男(斉木しげる)が住んでいた。のちにその男は裁判で無罪になった。
だが団地の自治会で、そのことが問題となり、その男に団地から退去してもらうことが決まった。
自治会から選ばれた2人(きたろう、大竹まこと)が、何とかその男に退去してもらおうと、説得にあたることになる。
2人のうちの1人(きたろう)は、無罪となったその「男」をあいかわらず犯罪者あつかいして、団地から何とか追い出そうと思っている。だが「犯罪者」という偏見が、逆に彼を震え上がらせて、妄想が広がってゆく。
それに対して、もう1人(大竹まこと)は、これに真っ向から反対する。無罪だということは、一般市民と同じであり、偏見の目をもって団地から追い出すことは、許されないことだからである。そこで彼は、「男」に対する極端なまでの偏見をとりのぞこうと、必死に反論する。こうして、2人は口論になる。
その二人のやりとりが、実におもしろい。おもしろい、というか、考えさせられるのである。自分がこの立場だったら、どう考えるだろうか。やはり偏見のまなざしで見るだろうか、それとも、そうした偏見にとらわれないでいられるだろうか…。
当然自分は後者だ、と誰しも思うだろう。だが、斉木しげる演じる「灰色の男」の、妙に神経質で、時折見せる狂気の表情は、「あるいはひょっとして…」という気にさせるのである。この3人の芝居は、見事というほかない。
もはやこれはコントではない。日常にひそむ、ちょっとしたホラーである。
どうしてこのコントを思い出したかというと、最近、山上たつひこ原作・いがらしみきお作画の『羊の木』という漫画を読みはじめたからである。まだ1巻しか出ていないが。
山上たつひこ、若い人は知らないだろうなあ。『がきデカ』を描いた漫画家。
人口減少に悩む地方都市が、あるプロジェクトをたちあげる。それは、刑期を終えた犯罪者11名を町で受け入れて、一般市民として住まわせる、というプロジェクトである。
出所した人たちはいずれも、凶悪な事件を起こした人たちばかりである。
このプロジェクトについて知っているのは、町長を含む3名。それ以外の市民は、この事実を知らない。つまり彼らの素性を知るのは、3人のみである。
だが彼らの素性を知る3人は、「刑期を終えたのだからもはや一般市民なのだ」と思いながらも、心のどこかで、また何か事件をおこすのではないか、と恐怖を感じている。一方で、いやいやそれは偏見なのだ、ふつうに接しなければダメなのだ、と強く思う。その2つの感情の間で、激しく揺れ動くのである。
何かが起こりそうで起こらない。「笑い」とも「恐怖」ともつかない感覚。この微妙な感覚が、さきの「灰色の男」のコントと通ずるのである。
はたして自分は、自分の中にある「偏見」をどれだけ自覚しているだろうか。それを試されているような気がしてならない。
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