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些細な発見

1月25日(水)

同じものをくり返し読んで、よくもまあ飽きないものだ。

と言われそうだが、何でもくり返し読むと、些細なことだが、発見がある。

山本周五郎の短編小説に、「夜の蝶」という名作がある。

詳しい内容は書かないが、下町の居酒屋で、酔っぱらった老人が、「おめえたちはなんにもわかってねえ」といって、次のようなことを叫ぶ。

「人間なんて悲しくって、ばかで、わけの知れねえもんだ。人間なんてものは、みんな聾で盲目で、おっちょこちょいなもんだ。ざまあみやがれ」

このセリフは、この作品全体を貫くテーマを語ったものともいえるが、今回読み返して、思い出したことがある。

黒澤明監督の映画「七人の侍」の、菊千代(三船敏郎)のセリフである(また「七人の侍」の話かよ!)。

「百姓ってのはな…けちんぼで、ずるくて、泣虫で、意地悪で、間抜けで、人殺しだア!!ハハハハ…おかしくって涙が出らア!!」

菊千代のセリフはこのあと、「でもな…そんなけち臭いけだものを作ったのは誰だ?…お前たちだぜ!…侍だってんだよッ!」と続く。

農民出身である菊千代が、侍たちに対して、自虐的に語る「百姓」観は、「夜の蝶」で酔っぱらいの老人が叫ぶ、「人間の弱さ」に対する眼差しと、じつによく通じている。

ひょっとして、この菊千代のセリフは、「夜の蝶」のこのセリフが意識されているのではないか?

黒澤明監督が、山本周五郎の愛読者だったことはよく知られている。実際、のちに黒澤監督は、「椿三十郎」「赤ひげ」「どですかでん」など、山本周五郎の小説を次々と映画化している。黒澤監督の脚本を、没後に別の監督が映画化した「雨あがる」(小泉堯史監督作品)「海は見ていた」(熊井啓監督作品)は、いずれも山本周五郎の小説が原作である。

しかし、よく調べてみると、そう一筋縄にはいかない。

「夜の蝶」が最初に発表されたのは、雑誌「家の光」1954年6月号である。対して、「七人の侍」が公開されたのも、1954年4月である。つまり、両作品は、ほとんど同時期に発表されているのだ。

つまり、どちらかがどちらかを参照したとは考えられないのである。

もちろん、この手のセリフは、ありがちのセリフである。だから両者には何の関係もない、と言ってしまえばそれまでだが、私にはどうもそうとは思えない。

山本周五郎の作品を自らの血肉としている黒澤明だからこそ、このようなセリフが書けたのではないか、と思う。それはつまりは、人間に対する眼差しという点において、二人は同じ視点に立っている、ということなのだ。

それが、ほぼ同時期に、似たようなセリフを生みだしたのである。

私はそこに、山本周五郎と黒澤明の、想像以上に深いつながりを感じてしまうのである。

…ま、そんな発見をしたところで、別にどうということでもない。

だが、どうということのない発見の中にこそ、作品の本質があらわれているように思えるのだが、まあ、これは負け惜しみかも知れない。

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