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野菜難(やさいなん)

2月19日(日)

午後、都内の某大学で、ワークショップである。

午後6時過ぎに終わると、外はすっかり暗くなっていた。

暗いうえに、はじめて来た大学なので、出口がどこかわからない。

まわりを見渡すと、何人かの人が集まっている様子が見えたので、そこに近寄っていって、出口をたずねることにした。

「あのう、すいません。出口はどこでしょうか?」

すると威勢のいいおじさんが出口らしき方角を指さしながら言った。「あっちの方ですよ。それより、野菜を持っていってください」

「え??」

「大丈夫です。もう精算が終わったんで、タダで持っていってもらって大丈夫ですから」

そう言うと、そのおじさんは私にビニール袋を渡した。「どうぞ、好きなだけ持っていってください」

どういうことだ?あらためて見渡すと、どうやら大学の構内で野菜の直売をしていたらしい。夕方になって直売会が終わり、けっこうたくさんの野菜が、売れ残ってしまったようなのである。

「いや、その…。これから新幹線に乗ってかえらなければならないので…」

「まあいいじゃないですか。私らだってこれから帰らなければならないんです」

看板を見ると、この野菜は、東北のある県でとれた野菜を、東北復興のために都内に持ってきて直売しているものであることがわかった。風評被害で売れ行きが不振になったことも影響しているようである。そういうことなら、協力しなければならない。

「わかりました。じゃあ、いただきます」

そう言って、売れ残った野菜をビニール袋にどんどんつめていく。

白菜1株、小松菜2袋、ジャガイモ1袋、玉ねぎ1袋…。

あっという間に、ビニール袋がいっぱいになった。ひとつのビニール袋では足りなくなり、もうひとつのビニール袋をもらう。とくに白菜1株がメチャクチャ大きくて、とにかく重いのだ。

仕事道具だの本だのをいっぱいつめたリュックを背負っていることに加え、両手には野菜のつまったビニール袋を持って、都内某所から東京駅へと移動する。

これではまるで、戦後の闇市で食料を仕入れてきた人みたいではないか!

ま、タダでいただいたのだから、「重い」などと文句を言うのはバチ当たりというものである。うれしい災難、というべきか。

これからしばらくは、白菜を使ったキムチ鍋が続くだろうな。それと、ルクエを使った「小松菜のナムル」にも、当分困らない。

(さすが、東京はオシャレな人が多いなあ…)

そんなオシャレな人たちを横目で見ながら、「闇市へ買い出しに行ったような格好」をした私は、新幹線のホームへと急いだ。

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