命がけの講演
2月4日(土)
この週末、まさかの講演2連続である。
初日の午後は、県内でも有数の豪雪地域で講演会である。
ふつうだったら、家から車で1時間半もあれば着く場所だと思うのだが、おりからの豪雪である。大事をとって、朝8時半に家を出ることにした。
雪は、豪雪地域に向かうにつれ、その勢いを増してゆく。
途中、何度も「ホワイトアウト」の状態におちいりながら、目的の町に入る。ほとんど命がけである、というのは少し大げさか。だが、町の大半が雪に覆われていたのはたしかである。
なにしろ、町民の足である鉄道が、数日前から大雪のため運休になっているのだ!途中、踏切をわたると、道路の両側にのびているはずの線路が、人の身長ほどの高さの雪に埋もれていて、まったく見えない。
会場となる建物を探すが、なにせ車道の両側には数メートルの雪の壁が立ちはだかっており、どこに建物があるかもわからない。
ようやく建物を見つけ、車を駐車場にとめるが、この駐車場じたいが「雪捨て場」になっていて、はたして本当にここで講演会をするのか、不安になってきた。
未曾有の豪雪の時に、講演を聞きに来る人なんているんだろうか?そんなことより、雪下ろしをしないと、町中が雪で埋もれてしまうぞ。
建物に入ると、役場の方が迎えてくれた。
「この大雪の中、来ていただいてどうもありがとうございます。大変だったでしょう」
「いえ、思ったほどではなかったです」
「こんな格好ですいません。さっきまで、中学校の屋根の雪下ろしをしていたものですから」
役場の方は、雪まみれであった。講演会なんかよりも雪下ろしを優先してください!と、喉元まで出かかった。
「控室にご案内します」
控室には、今回の講演会の主催の会の「おじいちゃん先生」がすでにいらっしゃった。初対面である。
「よろしくお願い申し上げます」と挨拶すると、
「あいにく、うちの会長がこのところ体調が悪くて今日は来られないそうです。副会長は、友人の葬式に出ておりまして…。で、今日は私が最初の挨拶をつとめさせていただきます」とおっしゃった。
やはりこの寒さだからだろうか、と思った。
「この会も老齢化が進みましてね。なにしろ私も今年で84ですからね」
は、84歳?!未曾有の大雪の日に、わざわざおいでいただいた、ということか。私は恐縮した。ということは、会長も副会長も、それくらいのお歳ということである。
午後1時半、会場となる部屋に行くと、40人くらいの人が座っていた。ほとんどが、ご高齢の方々である。
その中にまじって、いちばん前の席に懐かしい顔があった。
「先生、お久しぶりです」
数年前に卒業したF君である。彼はこの町の出身で、卒業後はこの町の役場ではたらいていたのである。
「久しぶりだねえ。元気だった?」
「はい。先生がいらっしゃるというので、聞きに来ました」
「今日私が来るって、よくわかったねえ」
「そりゃあもう、いま公民館で働いていますから」
この稼業をしていていちばん嬉しい瞬間は、思わぬところで卒業生に再会する時である。しかも、元気そうにしている姿を見るのは、なお嬉しい。
午後4時。2時間にわたる講演は、ひととおり終わった。
終わったあと、F君が来た。
「今日は久しぶりに先生の講義が聴けてよかったです」
「たまには大学にも遊びにおいでよ」
「そうします。今日はありがとうございました」F君は帰っていった。
会場を出て、近くの温泉旅館に向かう。このあとはここでおじいちゃん先生たちとの懇親会があり、そのまま私は、ここに泊まるのである。
午後5時半から、10人ほどのおじいちゃん先生に囲まれて、懇親会である。たぶん、平均年齢は80歳を超えていると思う。
こういう会に出るといつも思うのだが、「東北の男性は寡黙である」というのはウソである。おじいちゃん先生たちは、とにかくよく喋るのである。独特の方言と極端にローカルな話で、内容がわからないこともあるが、それでも聞いていると楽しい。
7時半過ぎに会はお開きとなり、みなさんとお別れしたあと、旅館の温泉に入った。
氷点下の空の下で入る露天風呂は、時間を忘れるね。
それにつけても心配なのは、明日の講演会である。
明日のお昼までに家に戻って、講演会場に向かわなければならない。
はたしてこの豪雪のなか、2日目の講演会場に無事にたどり着けるのか?
2月5日(日)
朝9時すぎ、旅館を出発して、今日の講演会場に向かう。
午後1時、講演会場に到着し、1時15分開始の講演になんとか間に合った。
ここからまた、夜の懇親会へと続く長い道のりが始まるのだが、それはまた、別の話。
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