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自慢話で何が悪い!

2月5日(日)

2日目の講演が終わり、懇親会に参加する。

私は、自分が面白いと思っていることは他人には面白くないのだろう、という被害妄想を常にいだいていて、実際、同業者にはほとんど理解されないことが多い。最近は、まあそういうものなんだろう、と思うことにしている。

講演を聴いていた1人が私のところにやってきた。

「こんにちは。ご挨拶が遅れました」

私よりも10歳くらい若いその男性が、名刺をさしだした。

「Oさんですね。昨年もこの場でお会いしましたね」と私。

「そうですね。でもそのときはご挨拶できませんでした」

この研究発表会は、毎年この時期に行われている。昨年のこの発表会で、Oさんは研究発表をした。その発表が、誰も注目しないような点に注目することを通じて、生身の人間の姿を映しだそうとしていて、とても印象に残っていたのである。

(面白い研究だなあ。でもこの面白さは、おおかたの同業者には理解されないんだろうなあ)

と、そのときに思っていた。

だが、専門分野が違うことに加えて、彼自身が「孤高の人」という雰囲気をかもし出していて、昨年はなんとなくとっつきにくい人のように思えたのだった。だから私自身も、彼と挨拶することができなかったのである。

「あのう、今日のお話…」とOさん。

「はい」

「専門分野はまったく違いましたけど、めざすところは同じだ、と思いました」

「そうですか」

「なんというかこう…あつかっている資料の背後に人間の動きを見るというか、生身の人間の姿を映しだすというか、そういう視点は、僕がめざしていることと同じように思いました」

専門分野の違う人が共鳴してくれるのは、なによりも嬉しいことである。意外に思うかも知れないが、同業者のほとんどは、自分の研究対象の背後にある「生身の人間の姿」を見ようとは決してしない。彼もまた、そういう現状に歯がゆい思いをしてきたのだろう。

「私も去年、あなたの話を聞いてとても面白いと思ったんですよ。でも、その面白さがなかなか他人に理解されないでしょう?私だってそうですもん」

「はい」Oさんは苦笑した。

それからひとしきり、自分たちが考えていることを話して盛り上がった。

「あとで、僕がこれまで書いたものをさし上げますので、ぜひ読んでください」

「わかりました」

Oさんが座をはずしたあと、横で一緒に話をしていた世話人代表のKさんが私に言った。

「いやあ、Oさん、以前はとっつきにくい人だと思っていたんですが、とっつきやすい人だったんですね」

「そうですねえ」

「今日は、それがわかったことがいちばんの収穫でした」

ひょっとして私も、多くの人に「とっつきにくい人」と思われているのかも知れないな、と、Kさんの言葉を聞いて苦笑した。

理解者が1人でもいるというのは、心強いものだ。

…という話を電話で妻に話をしたら、

「ふーん。結局また自慢話ね」

と一蹴された。

そうです。これは自慢話ですよ!

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