心がザワザワする映画
2月17日(金)
朝、職場の廊下を歩いていると、同僚に声をかけられた。
「午後、時間があったら映画を見に来てくださいよ」
「映画?」
そういえば今日の午後は職場で、2本の映画の上映と、そのあとに映画のプロデューサーを招いたシンポジウムをすると聞いていた。声をかけてきた同僚はその企画に関わっていたのである。
私は午後3時の新幹線に乗らなければならなかったから、たぶん見に行けないだろうな、と思ったが、チラシをよく見ると、2本上映される映画のうち、1本目は1時に上映が始まり、2時半くらいに終わるとあった。
1本目の映画を見るだけなら、3時の新幹線には間に合う。
ふだんの私ならそれでも見に行かなかっただろうが、昨年、私も職場のイベントを企画してみて、一人でも多くの人が来てくれると、主催者は嬉しいものだ、と実感した。だからできるだけこういうイベントには参加してみよう、と思ったのである。
それに、1本の映画が人生を変える可能性だってある。映画とはそういうものだ。
ということで、午前中のうちに大急ぎでやるべきことを片づけ、会場に行く。
「歓待」(深田晃司監督、2010年公開)というタイトルの日本映画である。
下町の印刷工場を営む小林一家のもとに、「加川」となのるヒゲ面の男がやってくる。胡散臭そうに見えるその男は、いつしかその印刷工場に住み込み、居座るようになる。不審に思う小林一家をのらりくらりと煙に巻きながら、やがてとんでもない事件に一家を巻き込んでゆく、というストーリー。
出演する俳優は、失礼ながら、だれ一人見たことがない。主人公である小林印刷の社長を演ずる役者が、小日向文世に雰囲気が似ているなあ、と思ったくらいで、あとは、まったくもって新鮮なキャスティングである。
見ているうちに、なんかザワザワする感じがしてきた。
「ザワザワする」としか、いいようのない感想なのである。
上映会のチラシには、「つぎはぎだらけの家族模様を、洗練されたユーモアで包みながら、時にシリアスに問題提起をし、時に爆笑を誘う。共同体と排除の問題を抱える現代日本を鋭く風刺しながら、家族とは何かを問いかけた」「話題作」云々と、この映画を評している。
だが、ちょっと違う感じがするんだよなあ。「ユーモア」でも「シリアス」でもない、「ザワザワ」としかいいようのない感じがするのだ。
ひげ面の「加川」が胡散臭く見えるのはもちろんだが、小林印刷の社長(小日向文世似の俳優)、そして妙に若くてきれいな小林社長の後妻、「加川」の「妻」と称する国籍不詳の金髪の外人女性、「出戻り」で居候している小林社長の妹…。登場人物のすべてが、なにかしらの「やましい部分」とか「闇の部分」をかかえていて、そう、つまりは、全員が「胡散臭い」人びとなのだ。
その胡散臭い人びとが、下町の小さな印刷工場という「一つ屋根の下」で、一見平穏に暮らしている。だがちょっとでもそのバランスが崩れれば、その人の「闇の部分」が見え隠れする。見ているこっちは、なんかザワザワするのだ。
なんだろうこの「ザワザワ感」は?前にもいちど感じたことがあるような…。
そうだ!「ツイン・ピークス」だ!デヴィッド・リンチ監督が手がけた連続テレビドラマ(1990~1991年放映)である。20年以上前に放送された当時、日本でも話題になったドラマである。
ツイン・ピークスというアメリカの小さな田舎町に、一見平穏に生活している人びと。そこで起こった女子学生殺人事件をきっかけに、それまで平穏に暮らしていた人たちの「闇の部分」が姿を現しはじめる。登場するすべての人たちが、胡散臭い人たちとしてたちあらわれてくるのだ。
ドラマを見続けていくにつれて、殺人事件の犯人捜しなどどうでもよくなり、登場人物たちの「胡散臭さ」の方に心をひかれたものだ。「ツイン・ピークス」を見ていたときの、あの「ザワザワ」した感じ。それを、この映画を見ていて思いだしたのである。
この映画の意図は、「ユーモア」でも、「シリアス」でも、「風刺」でもなく、あの「ツイン・ピークス」のような「ザワザワした感じ」を表現したかったのではないか?
…とここまで書いてきて、私は映画評論家には向いていないことがわかる。
なぜなら、この映画を評して「心がザワザワする映画」などと表現しているからである。なんだよ!「心がザワザワする映画」って?評論家なら、もっと気の利いた言葉を使わなければ、伝わらない。
上映後のシンポジウムで、もし私が「この映画は心がザワザワする映画ですね」と言ったら、会場の中でどのくらいの人たちが理解してくれただろうか、と想像した。
たぶん、だれにも理解されないだろうな。
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