3月21日(水)
2日後の卒業祝賀会に着ていく服がない!
見渡すと、「刑事コロンボ」みたいな服しかないではないか。
ということで、紳士服量販店に行くことにした。
おりしも、ここ最近は気持ちがどんよりしていて、これをなんとかしないと、仕事にも差し支えてしまう。
そういうときには、新しい服を買うに限るのである。ここはひとつ、新しい服で気持ちをリセットさせよう。
「どんなものをお探しでしょうか」と、女性の店員さん。
「フォーマルな服を探しているんですけど」
「礼服でしょうか」
「いや、礼服ってほどではないんですが」
「結婚式かなにかですか」
「ええ」面倒くさいので、「卒業祝賀会です」とは言わなかった。
「お友だちの結婚式でしょうか。それとも会社のご同僚の結婚式でしょうか」
そんな細かいところまで聞いてくるとは、かえって面倒なことになった。
「友だちです」
「そうですか」そういうと、店員さんは、いくつか候補を選び出した。
といっても、私は太っているので、じつは選択肢があまりないのである。
「それでいいです」と、店員がすすめたものに決めた。
「Yシャツとかはいかがでしょうか」想定内の質問である。
じつは、考えていたことがあった。
それは、卒業祝賀会に蝶ネクタイをしてみんなを驚かす、という計画である。
以前に、演奏会の司会で蝶ネクタイをしたことがあったが、じつは蝶ネクタイには、それに合うシャツが必要だ、ということを、最近知ったのである。
「あのう…」
「何でしょうか」
「たとえば…、たとえばですよ。蝶ネクタイに合うシャツなんてものがありますか?」私はおそるおそる聞いた。
「ございます。ウィングカラーのシャツですね」
「そうそう、そのウィングカラーです」
礼服のコーナーに行くと、マネキンにそのウィングカラーのシャツが着せてあった。
「これですこれです」と私。
「少々お待ちください。いま在庫を調べますので」
そういうと、店員さんは店内の在庫を探しはじめた。しばらくして私に言う。
「申し訳ございません。お客様のサイズに合うウィングカラーのシャツは、ただいま在庫をきらしております」
つまり、デブに合うウィングカラーのシャツはない、ということか。「お前に着せるウィングカラーはねえ!」という「次長課長」のギャグそのものである。たしかに、私のようなデブがウイングカラーのシャツを着ていたら、滑稽そのものである。マネキンくらい細身でないと、ウィングカラーのシャツは似合わないのだ。
ということで、「卒業祝賀会で蝶ネクタイをする計画」は、あえなく撃沈した。
仕方がないので、ふつうのYシャツを何枚か買うことにしてレジの方に行くと、レジの前に「処分品」と書いてあるワゴンが置いてある。
そこに、ビックリするくらい大きなズボンが1着、置いてあった。
「お客様」今度は、レジにいた男性の店員が私に話しかけてきた。
「このスラックス、お安くしておきますのでいかがでしょうか」店員はあろうことか、そのビックリするくらい大きいズボンを私にすすめてきたのである。
見ると、「ウエスト120㎝」と書いてあるではないか。
ひゃっ、ひゃっ、120㎝!!!???
「いくらなんでも大きすぎます」私が言った。
「いえお客様。腰まわりをつめれば大丈夫です。お直しの作業は、もちろん当方でいたしますから」今度は、女性の店員。
男性店員と、女性店員の、双方からの攻撃である。
「いや、でも…」私が渋っていると、
「では、お値段を1000円にいたします。もちろん、お直しの料金は無料にいたします」
どうしても、このズボンを売りたいらしい。
これが、意志の強い人なら断るのだろうが、気の弱い私は、もはや断るすべもない。
「わかりました」私は根負けした。
「ありがとうございます。じつはこのサイズのズボン、なかなか売れなくて困っていたんです。お客様のような方がいて助かりました」と店員。
つまり、私のようなデブは、ここにめったに来ないということか?私のようなデブが来たのはめったにないことなので、このチャンスを逃すまい、と必死だったのだろう。
「とりあえず、はいてみてはいかがでしょう」と店員にうながされ、試着室で、ウエスト120㎝のズボンをはくことにした。
はきおわって、試着室のカーテンを開ける。
「いかがでしょうか」と店員。
「ブカブカですよ!」
赤ん坊の頭が1つ入るくらい、ブカブカである。
「腰まわりをつめれば大丈夫です」店員はそういうと、どのくらいつめることができるか、シミュレーションをはじめた。
だが、どう頑張ってつめようとしても、やはりブカブカである。
「つめるって言ったって、限度があるでしょう」と私。
「ええ。でも、大丈夫です。なんとかします」店員は、このズボンを売るためなら、もうなりふりかまわない。だがどう頑張ってつめても、ブカブカのままであることは変わりないのだ。
「どうでしょう。このスラックスは厚手で冬用ですから、来年の冬に着るというのは」
つまり、来年の冬には、お前はもっと太っているだろうから、その頃にはサイズがピッタリになるだろう、ということか?
あ~あ。1000円だという口車に乗せられて、買うんじゃなかった。私はひどく後悔した。
それもこれも、私の体型の不徳の致すところである。
気持ちをリセットしたつもりが、さらにどんよりして、店を出た。
この日の晩、久しぶりにスポーツクラブに行って汗を流したことは、言うまでもない。これからまたスポーツクラブに通いはじめるぞ!と決意を新たにしたのであった。
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