断る勇気
4月18日(水)
朝起きたら、左足が痛い。
久しぶりに、例の「アレ」が来たな、と思った。
不摂生な生活を続けたり、ストレスがたまったりすると、左足が痛くなるという例の奇病である。
実際、ここ1、2週間ほどは、不摂生な生活が続いていた。
いったんこの痛みが起こると、何をするにも億劫になる。ふだんの3分の1くらいの力しか出ない。
歩くスピードも、ふだんの3分の1くらいになる。
まあ、人間、誰しも「痛み」というのをかかえていて、ある人はそれが偏頭痛だったり、胃痛だったり、ひどい肩こりだったりするのだろう。私の場合、その「痛み」がたまたま左足に出ているにすぎない。
(今日の職場の宴会はキャンセルだな…)
今日は、新年度を迎えての職場の懇親会なのである。
朝イチの授業が終わったあと、事務室に行って、キャンセルを告げた。
「どうしたんです?」
「ええ、ちょっと、体調が悪くて…」
「大丈夫ですか?」
こういう時、「痛風の発作が出ちゃって…」とは、言いづらい。
「不摂生な生活がたたって、左足が痛くなっちゃったんです」としか言えない。
午後、会議が終わり、廊下を歩いていると、事務職員さんに言われる。
「本当に行かないんですか?いまから欠席を取り消すことだってできますよ」
「いえ、ほんとうにいいんです」
「残念ですねえ」
そうは言われるが、実際、懇親会場に行ったって、ほとんど人と話すわけでもないし、まあ、行ったところで、どうということもない。
今度は別の職員さんとすれ違う。
「今日は、懇親会に行かれるんでしょう?」私はその職員さんに聞いた。
「ええ」
「私も行くつもりだったんですが、欠席することにしました」
「えええぇぇぇ!どうしてですかぁ?」
「不摂生な生活が続いて、足が痛くなっちゃって」
「それってひょっとして、『ぜいたく病』といわれているあの病気…」勘がいい人だ。
「ええ、まあ」ぜいたく病と思われるから、この病名を言いたくないのだ。
「残念ですねえ。今日お出になれないと、次は忘年会ですよ」
何度も言うが、仮に今日出席したからといって、とりたてて人と話をするわけでもない。
「ノンアルコールで参加されたらどうですか」
「それも考えたんですが…やっぱりやめておきます」
「そうですか。…あ~、残念ですねえ」
社交辞令とはいえ、そこまで言われると、少し心が動いてしまう。だがもしそんな言葉にうっかりそそのかされて行ってしまったら、意志が弱い私は、まず間違いなく、ビールを飲んでしまうだろうな。
「今日は飲めないんです」
「いいじゃないですか、1杯くらい。まあまあ」
「そうですか。じゃあ、1杯だけ」
そうなるともう、命取りである。
1杯が2杯、3杯になる。そのうち「じゃあ焼酎でも」とかいって、焼酎のお湯わりなんかを飲み出す。「え、赤ワインもあるんですか。じゃあいただきましょう」ってな感じで、結局いつものように飲んでしまう。職場の懇親会などの、私にとっては気まずい雰囲気の中では、なおさらアルコールが進むのである。
映画「男はつらいよ 口笛を吹く寅次郎」で、こんな場面があった。
備中高梁のお寺に一晩泊まった寅次郎が、翌朝、旅に出ようとすると、お寺の娘、朋子(竹下景子)が、せめて朝ご飯だけでも食べていってください、とひきとめる場面である。
朋子「今すぐ朝ごはんの支度しますので、せめてごはんだけでも」
寅「はい、そのお気持ちはありがとうございます。でもキリがありませんから」
朋子「どうして?」
寅「はい、朝ごはんをいただいたあとに、食後のお茶を飲みながら、バカっぱなしをしているうちに、すぐお昼です。『おそばにしますか?おうどんにしますか?』『そうですねえ、おそばでもいただきましょうか』
そんなことしているうちに、三時のおやつですから。薄切りの羊羹にお薄をいただいているうちに、今度は夜です。『もう1杯どうですか?』『いえいえ』、2杯が3杯、4杯、またこちらへ泊まるようなことになります。それじゃキリがありませんから」
朋子「そこまで考えることはないと思いますけど…」
寅「いや、考えちゃうんですね、性分として」
結局このあと、寅次郎はこのお寺に住みついてしまうのである。
たぶん私も、こんな感じになるはずである。
だから、絶対に出席するわけにはいかないのだ。
私には珍しく「断る」という姿勢を貫き、職場に残って、ひとり寂しく、こまごまとした事務仕事を、ふだんの3分の1くらいのペースで片づけていった。
宴会が始まったであろう時間には、足の痛みもかなりひいてきた。
(やっぱり出席すればよかったかな…。いや、ここで油断してうっかり出席したら、結局、元の木阿弥だ)
さまざまな心の葛藤を経て、夜9時、ようやく気持ちの整理がついたのであった。
…というわけで、今日の話をまとめると、痛風の発作が出たオッサンが、職場の宴会を欠席した、という報告でございました。
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