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静と光と陽水と

新幹線で移動するとき、たまにオッサンが読むような週刊誌を買うことがある。ま、私も十分オッサンなのだが。

ある週刊誌では、作家の伊集院静が悩み相談にこたえるという見開きのコーナーがあって、それがなかなか面白い。

あるとき、

「伊集院さん、『伊集院党』を作っていまの政治に渇を入れてください」

みたいな質問があって、それに対して、

「バカヤロウ。『伊集院党』を作ったって、静と光の2人しかいないじゃないか」

みたいに答えていて、それがずいぶんと可笑しかった。

同じ伊集院でも、静と光では、人間のタイプが真逆である。断然私は、「光」の側である

私は最近、以前だったら絶対に読まなかっただろうな、という作家の文章を、読んでみたいと思うようになった。

五木寛之とか、伊集院静とか。

いずれも、私とは絶対に違う価値観の持ち主だろうな、と、勝手なイメージを持っていた作家である。食わず嫌い、とでもいおうか。

19934045 伊集院静のエッセイ集『水のうつわ』(幻冬舎文庫)を読みはじめた。作者が40歳の時に書いたものである。今の私とほぼ同じくらいの年齢の時に書かれたもの。

たしかに読んでいると、私とはぜんぜん違うなあ、と思う。

だいいち私は、ひとりでお酒を飲みにバーに行ったり、寿司屋に行ったりはしない(回転ずしにはよくひとりで行くけれど)。まるで絵に描いたような、「ダンディな大人」の生活である。そういった場所で、ごく自然にふるまい、人びとと交流する、というのも、私には決してまねができない。なにもかもが、かっこよすぎるのだ。

だが、根底に見え隠れする、なにか鬱屈した感情というか、妄想というか、自虐性というか、そういったものは、読んでいてとてもよくわかる。

その点において、一見真逆なタイプにみえる「静」と「光」も、本質的には変わらないのではないか、とも思う。

この本の中に、「“手紙”」というタイトルのエッセイがある。

あるとき作者は、めったに手紙をくれない「シンガー・ソングライターの友人」から手紙をもらう。中を開いて読むと、次のようなことが書いてあった。

「手紙は思い立ったときにすぐに書くのが良いと聞いたことがあるので、筆無精の自分は今列車の中でこの手紙を書いている。字は元々、悪筆なのはかんべんして欲しい。先日は忙しいところを有難う。あなたのことを先刻から考えていた…」

この手紙を引用したあと、作者はひと言、「いい手紙だった」と、述懐した。

さて、この「シンガー・ソングライターの友人」とは、いったい誰だろう。文章は次のように続く。

「二年前、彼がつくった歌を私はよく口ずさんでいた。河のほとりにあるホテルを舞台にした男と女の歌だった。同じ歳回りなのに才能のある人間は違うなと、感心したり嬉しくなったりしたのを覚えている」

「シンガー・ソングライターの友人」とは、井上陽水であることが、この記述からわかる。

B00002ddh8_09_lzzzzzzz_2 このエピソードを読んで思い出したのが、井上陽水の「長い坂の絵のフレーム」という曲である。

この曲は、人間の人生の「後半期の生き方」について歌った歌で(少なくとも私はそう解釈しているが)、ひどく悩んだりしたときにこの歌を聴くと、なんとなく悟りを開いたような気分になるから不思議である。たぶん陽水の歌の中で、いちばん好きな歌かも知れない。

この歌の歌い出しが、

「この頃は友だちに 手紙ばかりを書いている

ありふれた想い出と 言葉ばかりを並べてる

夢見がちな 子どもたちに 笑われても」

という歌詞から始まっていて、伊集院静のこの文章を読んだとき、まっさきにこの歌詞を思い出したのである。

「夢見がちな 子どもたちに 笑われても」という部分が、ずっと気になっていたが、ひょっとしたら、列車にゆられながら手紙を書いている姿を見て、同じ列車に乗り合わせている子どもたちが笑いながら見ていることを意味しているのかな、と想像した。

陽水は、この歌詞のように、列車の中で友人に手紙を書いていたんだな。

私は、かなりな筆無精で、というか、もう何年も、手書きで手紙なんぞを書いたことがない。メールというものに、すっかり慣れてしまったからだ。

ただ、もっと年をとったら、ありふれた想い出と言葉ばかりを並べた手紙を、友人たちに書いてみたい、とも思う。なにしろ、「長い坂の絵のフレーム」に歌われたような生き方が、私の理想の生き方なのだから。

そのためには、手紙を読んでもらえる友人を確保しておく必要があるわな。

それと、極上の万年筆も。

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