まじめな話をしている横で
5月23日(水)
朝イチの授業が終わって研究室に戻ると、4年生のN君がやってきた。
「学生研究室の中にあるものを、耐震工事のためにすべて引き上げなければならないんですが、学園祭で使った看板、どうしましょうか」
そういえば、学生がふだん使っている研究室も、来月からはじまる耐震工事のために使えなくなるのだった。そこには、昨年、一昨年の学園祭で使った、私のイラストが描かれた看板が保管されていた。
「捨てるのはしのびないから、ひとまず私が預かるよ」
「わかりました。では持ってきます」
しばらくして、4年生のCさんが、私の研究室に看板を持ってくれた。私はそれを、研究室の中に置いておいた。
さて、夕方。
気の重い会議が終わり、研究室に戻ると、しばらくして、「まじめで仕事のできるN先生」がいらっしゃった。
「ちょっと、さっきの会議の件で、重要な話が」
N先生は私の研究室に入り、職場の将来に関わる重要な話をされた。
私も、当然のことながら、それに対してまじめに受け答えをする。
しかし途中で、例の看板が置いてあることを思い出した。
しかも、いま目の前でまじめな話をしているN先生のちょうど視界に入る位置に、それらの看板が置いてあるではないか!
そのことに気づいてからというもの、気になって気になって仕方がない。
心なしか、N先生も、その看板の方をチラッチラッと見ているような気がする。
私の顔がデフォルメされたイラストの看板が置いてあるのを見て、まじめなN先生は、どう思っているのだろう?
(こいつ、自分のキャラクターグッズ作ってるのかよ!キ~モチ~ワル~イ)
と思っているんじゃないだろうか、とか、
(こいつ、どんだけ自分のことが好きなんだ?!キ~モチ~ワル~イ)
と思っているんじゃないだろうか、とか、そんな妄想が頭をめぐりだした。
「いえ、これはですね、その…、学生が学園祭のときに作った看板でありまして、捨てるのがしのびなくて預かっているだけなのです」
と、喉元まで出かかったのだが、職場の将来を左右するほどのまじめな話をしている最中に、唐突にそんなことを言うこともできない。そんなことを言ったら、かえって「自意識過剰」と思われるに違いない。それに、そもそもN先生がこの看板のことをまったく気にしていない可能性もあるし。
「…ということで、そんな感じで進めましょう」
「そうですね。そうしましょう」
ひととおり話が終わり、N先生は、研究室を出ていかれた。
嗚呼、N先生は絶対、「こいつとはもうまじめな話ができない」と思って呆れて出ていかれたんだな、と、私はうなだれた。
こういうとき、軽く死にたくなるね。
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コメント
「できる教師にはマイキャラがある!」と、できる教師になるための本に書いてあったので、大丈夫です。
投稿: R.I | 2012年5月25日 (金) 00時05分
「できる教師になるための本」というのが、なんとなく胡散臭いなあ(笑)。
投稿: onigawaragonzou | 2012年5月26日 (土) 02時43分