バレエ・メカニック
最近、つくづく思うのは、「思春期に聴いた音楽こそが、その後の音楽の趣味を決定づける」ということである。
この日記で、やれYMOだ、やれナベサダだ、やれ大貫妙子だ、やれ矢野顕子だ、などと書いているが、それらは結局のところ、私が思春期に聴いた音楽に対する思い入れを書いているにすぎず、いくら私が熱っぽく語ったとしても、そうでない人にとっては、「はあ?」という感じになる。
たとえば、YMOの曲を妻に聴かせても、「どこがいいのかまったくわからん」と言われるのは、そういうことである。
つまり、どのタイミングで、その音楽を聴くか、ということである。そのタイミングが合えば、「わかるわかる」ということになるし、タイミングが合わなければ、一生、わからないことになる。
こんなことを書いたのは、思い出したことがあったからである。
坂本龍一に「未来派野郎」(1986年)というタイトルのソロアルバムがあって、まあ、坂本龍一のファンでなければ買わないアルバムだと思うのだが、その中に、「Ballet Mecaniqu(バレエ・メカニック)」という曲があった。
坂本龍一は80年代当時、YMOや映画のサントラなどではとても売れていたが、ソロアルバムは、自分の世界観を追求している作品が多く、それほど売れていたわけではなかった。むしろどちらかといえば、地味なものが多かったのである。「未来派野郎」もそうであった。
私は、このアルバムに収録している「バレエ・メカニック」という曲がとても好きだった。何かこう、心がザワザワするというか、せつなくなるというか、とにかく、地味だけれども、耳について離れない曲だったのである。
とくに、英語の歌詞から日本語の歌詞に移るところ、
「ボクニハ ハジメトオワリガ アルンダ
コウシテ ナガイアイダ ソラヲミテル
オンガク イツマデモツヅク オンガク
オドッテイルボクヲ キミハ ミテイル」
のあたりにさしかかると、何か、すごくせつなくなるのである。
たぶん思春期特有の、やるせない思いと、この曲の雰囲気がマッチしたのではないかと思う。
何年か前、私と同年代のラジオDJが、こんなことを言っていた。
「自分は音楽には全然詳しくないが、中学時代の友達がYMOのファンで、その友達に聴かせてもらった坂本龍一の「バレエ・メカニック」という曲がすごく好きだった。ふだん、自分の番組で自分の好きな曲をかけることはないけど、これだけは自分の番組が最終回を迎える時だけにかけようと決めていた。そして以前、長く続いた深夜番組の最終回の時に、この曲をかけた」
この話を聞いて、なんとなくうれしかったのは、「バレエ・メカニック」という地味な曲が、鬱屈した思春期を過ごしていた少年にとって「特別な1曲」として心にひっかかっていたのは私だけではなかった、ということだった。坂本龍一のファンでもなんでもないその人の言葉だけに、なおさらうれしかったのである。
ぜんぜん世の中を席捲した曲でもないのに、そのラジオDJも私も、その曲が「特別な1曲」であると思ったのは、その曲の持つ力もさることながら、その曲を、思春期のある時期に、何らかの思いをもって聞いていたからではないだろうか。つまり思春期の鬱屈した思いと、その曲に出会うタイミングが、合致したからではないだろうか。
「バレエ・メカニック」がいい曲だと思う人はいるとしても、私やそのラジオDJと同じような感じでこの曲に思い入れがある人は、どのくらいいるのだろう。
…と、ここまで書いてきて、「バレエ・メカニック」をまだ聴いたことのない方、どんな曲か、聴いてみたくなったでしょう。機会があったら、聴いてみてください。
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コメント
朝の通勤電車の中で、ふと蘇ってきたメロディー。それが「バレーメカニック」でした。
確か高校2年の時に買ったCD「メディアバーンライヴ」の2曲目に収録されている曲です。
このアルバムが大好きで、修学旅行の京都の行き帰りに、ずっと聴いていた思い出があります。特に「バレーメカニック」は今でも大好きです。
懐かしさとうれしさと当時の切なさと、いろいろな思い出が蘇ってきました。
ありがとうございます。
投稿: ばん | 2016年7月 8日 (金) 08時37分
「メディア・バーン・ライヴ」は名盤ですね。
投稿: onigawaragonzou | 2016年7月10日 (日) 00時47分