名探偵になれず
5月21日(月)
事務室に行くと、職員のNさんが私に言った。
「例の鍵、M先生のものではありませんでした…」
「3F 資料室」と書かれた落とし物の鍵は、私が最初に推理した、甲学のM先生のものではなかったのだ。
私はその場で大きくうなだれた。
「結局私もハズしましたか…」これが当たれば私も名探偵!などと自信満々だっただけに、何とも恥ずかしい。
最後の頼みの綱であるM先生でもないとすると、もはや打つ手はない。
…いや、一つだけ手があるぞ!
「そうだ!この鍵を持って、3階の資料室を開けてみましょう。その資料室にある資料を見れば、どの専門分野の先生が使っていたものかがわかるはずです。その上で、鍵を落とした先生を推理すればいいんだ!」ひらめいた、といわんばかりに私は叫んだ。
「なるほど」とNさん。
「どうしてこんな簡単なことに最初から気づかなかったんだろう…」私は自分の推理の浅はかさを悔やんだ。
さっそく、鍵を持って3階に行き、「資料室」を開けてみた。
「なるほど、この部屋は、丙学と戊学が共同で使用している部屋のようですね」資料室に残されている文献から、丙学と戊学の共同使用の資料室であることは明白だった。
「戊学のN先生とF先生は、2人とも鍵の持ち主であることを明確に否定しているから、戊学の先生であるはずはない。丙学は、A先生は否定されたけれども、丙学の他の先生にはまだ確認していませんよね」
「ええ、そうです」
「丙学には、A先生の他に…、そうだ!O先生がいらっしゃる。鍵の持ち主は、O先生の可能性がありますよ!」
「そういえば、まだO先生には鍵のことをうかがっておりませんでした」
「もうこうなったら、O先生しか考えられません。これでもしO先生でなかったら私、自殺します!」これまでことごとく推理をはずしてきた私ももう、やぶれかぶれである。
「何もそこまで思いつめなくても…」
「とにかく、O先生に聞いてみましょう」
ちょうど運のよいことに、そこにO先生が通りかかった。
「O先生!この鍵に見覚えありませんかっ!!!」私はO先生に鍵を見せた。
「何です?藪から棒に」
O先生はそういうと、鍵をしげしげと見た。
「…こんな鍵、知りません」
「えええぇぇぇぇぇっ!!!知らないんですか?」
「だいいち、僕はこの資料室とやらに入ったこともありません」
「で、でも…この資料室には丙学に関する文献が保管されているんですよ」
「でも、知らないものは知らないんですよ」
うーむ、どういうことだ??わけがわからない。
「ほかに丙学を教えている先生って、いらっしゃいましたっけ?」
「I先生ですね」
「I先生!?」
そうか、もうひとり、I先生がいらっしゃったか…。まったくノーマークだった。
「すいません。お騒がせしました」私はO先生にお詫びした。
O先生が去ったあと、私はNさんに言った。
「結局、またハズしてしまいました…」
「気になさることありませんよ。みなさんハズしていらっしゃいますし…。とりあえず、あとでI先生に連絡をとってみます」
慰めともつかない言葉をいただき、研究室に戻った。
はたして鍵の持ち主はI先生なのか?
…もう、どうでもよくなってきた。
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