花は咲き、鳥はさえずる
6月1日(金)
午前11時。
朝イチの授業が終わったあと、世話人代表のKさんの車で、R市に向かう。
世話人代表のKさんに、「いちど、R市に行ってみませんか?」と誘われたのは、今年の3月11日のことだったと思う。いま関わっているボランティア作業と関わりの深いR市に、私はまだ一度も行ったことがなかった。というより、津波で壊滅的な被害にあった沿岸部被災地に、そもそもまだ行ったことがなかった。それはひとえに、無力感から来る私の怠慢にすぎなかったのだが、Kさんはそれを見かねて、私を誘ってくれたのだと思う。考えてみれば、Kさんはいつも私を後押しする。
ダブルkさん(ダブル浅野的な意味で)を含めた総勢7名で、車で4時間ほどかかるR市を訪問した。
目的地は、R市の山あいにある、廃校となった小学校である。
「ずいぶん川の水がきれいですねえ」山里の小学校に向かう道路には、並行して川が流れているのだが、その川の流れは驚くほど透明だった。
「いいところでしょう。合宿するには最高の場所だと思いますよ」とKさん。Kさんはすでに何度かこの場所を訪れていた。「ほんとうに、あの地震が起こったとは思えないくらい、のどかなところです」
午後3時前、小学校に到着した。
この小学校でいろいろなものを見せていただいたり、担当者の方とお話しをさせていただいたりして、いろいろなことを深く考えさせられた。
深く考えさせられた、としか、今の段階では言いようがない。
午後5時、私たちは、貴重な時間を割いてくださった担当者の方に感謝して、小学校をあとにした。
「町におりてみましょう」と世話人代表のKさん。「町」とは、津波で壊滅した沿岸部のことである。この町は、その機能のほとんどが沿岸の低いところにあったため、いわば町全体が津波によって壊滅してしまったのである。
車が町の中心部に入る。「だいぶ瓦礫が片づきましたねえ。でも、それ以外は1年前とほとんど変わっていない」Kさんが運転しながら言った。
ほんとうに、見渡すかぎり何も残っていない。津波は根こそぎ奪ってしまったのだということを、実感した。
だが、ところどころ、建物がそのまま残っている場所がある。
「法律上、公共の建物は自治体が取り壊さなければならないことになっているのです。民間の建物は、自衛隊が取り壊してくれたのだけれど、公共の建物は取り壊せなかったのです」
「すると、いま残っている建物は、みな公共の施設ということですか」
「そうです」
公共の施設が集中している場所に車をとめて、歩いてみることにした。消防署、図書館、体育館、博物館といった公共の施設は、「あの日」のままの状態をとどめていた。津波の被害のすさまじさは、やはり実際に見てみないとわからない。こんなあたりまえなことに、私は1年以上たって、ようやく気づいたのである。
この町は、今後どうなっていくのだろう?本当の意味で復興するのは、いつなのだろう?私には想像もつかない。
鳥のさえずる声がする。
「この場所に鳥が巣を作っているなんて、なんか不思議な感じです」
鳥たちが拠るべき場所は、もはや取り残された建物の中にしかないのかも知れない。
「お花をお供えしましょう」とKさん。
用意していたお花をお供えして、私たちは手を合わせた。
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