丹波総理待望論!
6月20日(水)
昨晩、久しぶりに映画『日本沈没』(森谷司郎監督、1973年)を見る。
田所博士(小林桂樹)を目当てに見はじめたのだが、途中で、総理大臣役の丹波哲郎の演技に釘付けになる。
非常事態が起こってからの、丹波総理の対応が、じつにすばらしい。もちろん、役の上でのことである(総理の役名も「山本総理」なのだが、ここでは「丹波総理」としておく)。
これこそ、学ぶべきリーダーシップではないか!
とくに印象的なのは、丹波総理が、政界のフィクサー(黒幕)である老人(島田正吾)と、日本沈没の可能性について話しあう場面である。
老人は、日本が沈没した場合の、政府がとるべき対応の選択肢を、いくつか提示する。
その一つが、「何もしない方がいい」というものであった。日本に住む人びとは、沈みゆく日本列島と運命をともにすべきである、という意見である。
この選択肢を老人が提示したときの、丹波総理の表情がすばらしい。
自分は一国のリーダーとして、なすすべがないのか、という、無念の表情である。
日本映画史に残る屈指の名場面である。
絶望の底から、こんどは丹波総理が老人に語りかける。
自らが世界の国々を説得して、一人でも多くの日本人を受け入れてもらうようにしたい、と。
世界中の人々を説得すれば、日本人を必ず受け入れてくれるだろう、と、丹波総理は考えたのである。そこから、空前の脱出計画がはじまる。
このとき、丹波総理は次のようなことを老人に言う。
「爬虫類の血は冷たかったが、人間の血は暖かい。これを信ずる以外ない」と。
この言葉を私が最初に目にしたのは、高校生の時である。高校の時に買った、劇団スーパーエキセントリックシアターのギャグアルバム「ニッポノミクス」の帯に、この言葉が書かれていたのである。
私はてっきり、この言葉は劇団スーパーエキセントリックシアターの「持ちギャグ」か何かだと思っていたのだが、後年、映画「日本沈没」を見て、このセリフからとられたものであることを知った。
ということは…。
この言葉は、脚本家の橋本忍が生み出した言葉だ、ということである。
「爬虫類の血は冷たかったが、人間の血は暖かい」
高校生のころから、何度となく思い出していたこの言葉は、橋本忍によるものだったのだ。
橋本忍の生み出す言葉。それを、映画史に残る印象的な「語り」として高めていく丹波哲郎。
思い出したぞ。
映画「砂の器」(野村芳太郎監督、1974年)も、橋本忍の脚本を、刑事役の丹波哲郎が映画史に残る「語り」にまで高めたのであった。
「言葉」と「語り」の幸福な出会い、というべきだろう。
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コメント
東京に大地震が発生し、避難民が皇居の門に殺到する。それを機動隊が阻止しようとする。それを見た丹波哲郎は宮内庁に
「ただちに宮城の門を開いて避難民を中に入れてください。内閣総理大臣の命令です!」
と叫ぶ。
こんなことをしてくれる総理はあらわれてくれるのだろうか…
投稿: 江戸川 | 2012年6月23日 (土) 16時54分
そのシーンも名場面ですな。
ま、丹波総理みたいなリーダーは、出てこないでしょうな。私の身のまわりを見渡しても、そんな尊敬すべきリーダーなんて、まったく見あたりませんからねえ…。
投稿: onigawaragonzou | 2012年6月24日 (日) 01時37分