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憧れと絶望の1日

気分は金田一探偵

7月3日(火)

「いちど、僕たちの調査場所を見に来ていただけませんか」

別の職場につとめるOさんからそう言われたのが、1カ月ぐらい前だろうか。

今学期は火曜日が比較的余裕があるので、火曜日ならば大丈夫です、と返事した。

朝9時、Oさんの運転する車で、現地に向かう。

Photo 車で1時間ほどのその場所は、見晴らしのよい丘の上である。そこからみえる川の流れが、心を落ち着かせた。

目的は、そこにあるお堂の内部を調査することである。

ひっそりとしたお堂の中で、時間が止まったような感覚におちいる。板壁には、びっしりと古びた絵が掛けられている。

なんか久しぶりだなあ、この感覚は。

私は、この感覚がたまらなく好きなのだ。

たぶん子どもの頃から、横溝正史の世界に憧れていたためだろう。

Oさんがお堂の内部を撮影する。Oさんは芸術家で、私とはまったく違う世界の方である。だがそれだけに、その仕事ぶりにも憧れてしまう。

「このお堂の横に川が流れていますでしょう?地元の伝承によりますと、あの川の真ん中に獅子頭の形をした大きな岩があって、もともとはその岩の上にお堂が建っていたっていうんです。それがあるとき、川が氾濫してお堂が流されそうになったんで、川岸のこの小高い丘にお堂を移築したそうなんです」Oさんが私に言う。

「うーむ。興味深い話ですねえ」ますます金田一チックな世界である!「今日の調査をもとに、いろいろと考えてみたいと思います」

誰も光をあてないところに光をあて、その語り部となる。つまり私は、狂言まわしである。

これこそ、私が少年の頃に憧れていた、金田一探偵ではないか。

少年の頃に憧れていた探偵にはなれなかったが、それに近いことをやっている。人間とは、自分の憧れるスタイルに、自分を近づけていくものらしい。

夕方までかかると思われていた調査が、お昼ごろに終わり、職場の研究室に戻った。

少し時間に余裕ができたので、得した気分になったとたん、猛烈に眠気が襲ってきた。

このところ、疲れていたからなあ。

イスに座り、足を投げ出しているうちに、うつらうつらと、というより、本格的に眠りだした。

しばらくして、トントン、と、ドアをノックする音で目が覚める。

はっ!今、鼾をかいていたんではないだろうか!?

私は眠ると、ビックリするくらい大きな鼾をかくのである。

慌てて、寝ていなかったふりをするが、たぶん、バレバレだっただろう。

その後も何人かの来客とお話ししているうちに、あっという間に夕方7時である。

(そういえば、今週はまだ、アルトサックスの練習に行っていないな…)

ということで、1時間ばかり練習をする。

再び職場に戻ると、「依頼していた研究発表の原稿、7月31日までに絶対に送ってください。絶対ですよ」と、催促のメールが来ていた。まだ全然手をつけていない。

こんなことなら、アルトサックスの練習なんか、するんじゃなかった。

あー。俺はいったい何をしているのだ?!午前中はあんなに充実して、しかも午後に思いもかけず時間ができたっていうのに、結局は、元の木阿弥である。

1日というのは、こんなものである。

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