聖化の完成
7月19日(木)
夜、「丘の上の作業場」での作業が終わったあと、所用があって「前の職場」の同僚だったKさんに電話をする。
「これからこぶぎさんと食事に行こうと思っていたところです」とKさん。すぐ横にこぶぎさんがいるらしい。「替わりましょうか?」
「あのゲストハウス、ヒント出し過ぎだよ」と、替わるなり、さっそくこぶぎさんが言う。
「やはりわかりましたか」
「あれだけヒントを出されれば、すぐにわかるよ」
それからひとしきり、その話題になる。こぶぎさんは私のブログをきっかけに、そのゲストハウスのことをかなり調べていた。
私のブログをどんだけ精読しているんだ?これほど私のブログを読み込んでいる読者は、他にいないだろう。
「ま、連休中にもかかわらず予約が入っていないゲストハウスには、気をつけろってことですな」これまで数々のゲストハウスに泊まってきたこぶぎさんならではのアドバイスである。
「ところで、DVDマガジンの『男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日』はいつ出るの?自分が出演しているのかいないのか、確認したくってね」一昨日私が書いたコメントを受けて、こぶぎさんが質問した。
こぶぎさんはなんと、映画「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」にエキストラで出演していたのである。
ただし、撮影は行われたものの、編集段階でカットされたという。「山田洋次監督は、見る目がないよなあ。私の演技をカットするなんて」というのが、こぶぎさんの口癖である。
で、本当にカットされたのか、ひょっとしてカットされていなかったんじゃないか、そのことを確認したいというのである。
「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」はシリーズ40作目で、その前の作品が「男はつらいよ 寅次郎物語」である。先日、この「寅次郎物語」を見返した。
ある日、小さい男の子が寅次郎を訪ねて柴又にやってくる。彼は、寅次郎のテキ屋仲間の息子なのだが、彼の父親、つまり寅次郎の友人が死んでしまい、身より頼りのない彼が、寅次郎を頼ってやって来たのである。彼には生き別れた母がいた。寅次郎は、その息子とともに、母をさがす旅に出る。
寅次郎版「母を訪ねて三千里」である。
この映画をあらためて見なおすと、この時期のシリーズ作品の中では、ずば抜けた名作である。
寅次郎は、シリーズ作品を重ねるごとに、「どうしようもない厄介者」から、「いい人」へと変貌していく。これを評論家たちは「テキ屋の聖化」と呼んだが、この映画は、その「寅次郎の聖化」が極まった作品である。
帝釈天の「御前様」である笠智衆と、妹のさくら(倍賞千恵子)との会話に、それが端的に表れている。
御前様「よかった。ほんとうによかった。仏さまが寅の姿を借りてその子を助けられたのでしょうなあ」
さくら「もったいない。兄みたいな愚かな人間が仏さまだなんて・・・罰が当たりますよ、御前様」
御前様「いや。そんなことはない。仏さまは愚者を愛しておられます。もしかしたら私のような中途半端な坊主より、寅の方をお好きじゃないかと、そう思うことがありますよ、さくらさん」
さくら「おそれ入ります」
文字に起こすとそのセリフの妙味がなかなか伝わりにくいが、これを笠智衆が語ると、じつに印象的なセリフになる。
ここでは寅次郎が「仏さまに愛された人物」と評されるが、そこに思い至る御前様のまなざしこそが、すばらしい。
もうひとつ、シリーズ中屈指の名シーンがある。終盤、寅次郎が甥の満男に見送られて、柴又駅から旅に出ようとするシーンである。
思春期真っ直中の満男がふいに、伯父の寅次郎に聞く。
満男「おじさん」
寅次郎「なんだ」
満男「人間てさあ・・・」
寅次郎「人間? 人間がどうした」
満男「人間は、何のために生きてんのかなあ?」
寅次郎「ん?おまえ、難しいこと聞くなあ。え?、うん、何ていうかなあ、ほら、ああ、生まれてきてよかったなあって思うことが、何べんかあるじゃない、そんなために生きてんじゃねえのか?」
満男「ふ~ん」
寅次郎「そのうちお前にもそういう時が来るよ。なあ。まあ頑張れ!」
そして、寅次郎が柴又駅に向かって去っていくのだが、その去ってゆく後ろ姿が、じつに格好いいのだ。それはまるで、ひとりの思索者のようである。
この作品で、「寅次郎の聖化」が完成した、といってよい。
この作品を見るたびに思う。「この作品でシリーズを終わらせていたら、有終の美を飾れたのではないか」と。
それだけこの作品は、後期のシリーズの中では屈指の名作だと、私は思うのだ。
だが、こうも思う。
もしこの作品が最後の作品になっていたとしたら、次回作でこぶぎさんがエキストラとして出演する機会も、永遠に失われてしまっただろう。
そう思うと、続いてよかった、とも思う。
そんなシリーズ第40作「男はつらいよ 寅次郎サラダ記念日」のDVDマガジンは、7月24日発売ですよ!こぶぎさん。
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