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勝負はこの週末

7月22日(日)

私の業界を「お笑い業界」にたとえると、私は中堅のお笑い芸人である。

そうねえ。「さま~ず」とか、「くりーむしちゅー」とか、そんなランクである。

夏休みに、お笑い芸人たちが集まる合宿ライブをやることになった(もちろん、これはたとえ話)。

ネタをするのもお笑い芸人なら、客もお笑い芸人である。

主催者の友人から、「8月の合宿ライブで、お笑い芸人全員の前でネタをしてください」と言われた。

大勢の同業者の前でネタをするのは、本当に久しぶりなので、どうしていいかわからない。すっかり、やり方を忘れてしまった。

「どんな人が来るんです?」

「おもに若い人ですが、今年はベテランの人もそろって来られるそうです」

つまり、若手の後輩芸人と、ベテランの先輩芸人、ということである。

これは困った。

若手のお笑い芸人からは、「あいつ、先輩ヅラしているけど、実力はあんなもんか、フフフ」とバカにされそうだし、ベテランの先輩芸人からは、「アイツの芸は、基礎がなっておらん。俺たちのころは、もっと勉強したもんだ」などと、説教されかねない。

つまり今回引き受けた仕事は、私にとってまったくトクにならない、ということである。

こりゃあ、ヘタなネタを出せないなあ。

しかも主催者の友人からは、「今月末までに、どんなネタをやるか(つまり、発表原稿)を、絶対にこちらに送って下さいよ」という。なんでもそれを冊子にして当日来た人に配るので、印刷と製本の都合上、締切が今月末だというのである。

もうあまり時間がない。今月の最終週は、ビックリするくらい仕事を抱えているから、やれるとしたら、この週末しかない。

ということで、この週末は、引きこもってこのときのネタを考えることにした。

21日(土)

朝から必死に考えても、ネタが思いつかない。

(こまったなあ。神様が降りてこないなあ)

引きこもってばかりでは仕方ないので、お昼から午後にかけて、やはり私と同様、ネタ作りに追い込まれて職場に来ていた同僚と話をしたり、知り合いの仕事現場の公開説明会があるというので、出かけていって、そこでまたいろいろな知り合いと話をしたりする。

おかげで午後になって、ようやく、神様が降りてきた。

降りてきた神様は、正しい方向に導いてくれるのかどうかわからないが、とりあえず、この神様のお告げにしたがって進んでいくしかない、と思い、ネタを考えはじめる。

22日(日)

1日、職場に引きこもり、昨日降りてきた神様のお告げにしたがって、ネタを作り上げる。

しかし、耳元で悪魔がささやく。

「髪の毛が伸びてきたよ。そろそろ散髪屋に行ったら?」

「履いている靴が破けてボロボロだねえ。そろそろ買いかえないと、夏休みを乗り切れないぞ」

「せっかくの休日なんだから、アルトサックスを練習しないとねえ」

さあ困った。こういう時にかぎって、ほかのことをやりたくなってしまう。

(どうしよう…)

考えたあげく、夕方、靴を買いに行くことにした。

けっこう気に入った靴が買え、気分がよくなった。

(ついでだから、1時間だけ、アルトサックスを練習しよう)

一昨日に引き続き、ナベサダさんの「BOA NOITE」のアドリブ部分の練習。

すると、ビックリするくらい調子がいい。

(今日は音もよく出るし、指もよくまわるなあ)

あっという間に1時間がたってしまった。

この勢いで続けて練習したら、飛躍的に技術が上達するぞ。

練習時間をもう1時間延長したい、と思ったが、グッとこらえた。

どうして、絶対にやらなければならないことがある時にかぎって、それを差し置いてほかのことがはかどるのか?

これは、人類永遠のテーマである。

さて、かんじんの「ネタ作り」。はたしてうまくいくのか?

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