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かなりカオスな発表会

8月27日(月)

先週の金曜日から、いろいろなことがありすぎて、何から書いていいかわからない。

とりあえず、今日のことを書く。

前回までのあらすじは、ここここに書いた。

今日はいよいよ、2週間の短期研修にやってきたベトナムと中国の学生30人を相手に、ある企画を行う、という日である。

私が考えた企画というのは、次のようなものである。

30人の学生を、6つのグループに分け、それぞれのグループに対して、手伝ってくれる日本の学生1人をずつ割りあて、合計6人でひとつのグループにする。つまりこのグループは、日本、中国、ベトナムの混成部隊である。

午前中、各グループにビデオカメラを1台ずつ持たせて市内に放ち、「これは面白いな」とか、「日本らしいな」とか思うものを、撮ってきてもらう。

さらに、町の人にインタビューして、その町のよさだとか、自慢できるものを聞き出す。

午後、大学に戻り、プレゼンテーションの準備をして、夕方、各グループによるプレゼンテーションを行う。プレゼンテーションでは、午前中に行った場所について、模造紙に書いたり、撮影したビデオを流したりしながら、説明を行う。説明は、もちろん英語である。

すべてのグループのプレゼンテーションが終わったあと、投票をおこない、最も面白いと思ったグループを決定する。

以上の段取りである。

要は、街をブラブラ歩きながら、さまざまなモノや人と出会い、それを映像に記録する、という企画で、イメージとしては、「鶴瓶の家族に乾杯」みたいなことをしたいな、と思っていたのであった。

企画を考えたときは、「これは面白いぞ」と思ったのだが、いざ実際にやってみると、いくつかの大きな誤算があったことがわかった。

ひとつは、手伝ってくれる日本の学生が、4人しか集まらなかったことである。

グループは6つなので、2人ほど足りない。

「そこでお願いなのですが」と職員のMさん。

「何でしょう」

「先生にも、学生と一緒に街歩きに参加してほしいのです」

「ええぇぇぇ!私がですか?」

「お願いします」

もうひとり、教員としてこの企画に参加していた他部局のIさんが、「いいですよ~」と、ふたつ返事でOKした。

となると、私も引き受けざるを得ない。

ということで、私も朝から彼らと一緒に街歩きをすることになったのである。

二つめの誤算は、この暑さである。

予報では、本日の最高気温は35度である。こんな日に半日も炎天下のまちなかを歩き続けるのは、ほとんど無謀な行為である。

ただでさえ大汗かきの私にとっては、ほとんど自殺行為である。我ながら何とバカな企画を立ててしまったのだろう、と、今朝になってひどく後悔した。

さて、朝9時。

本日のスケジュールを説明したあと、いよいよまちなかに出発である。

ここで3つめの誤算。

私は、英語がほとんど話せないのだ。そもそも、うちの職場には英語の堪能な同僚が山ほどいるというのに、なぜよりによって私がやらなければならないのか?

私のグループにいるのは、中国人学生のK君とWさん。ベトナム人留学生のリン君とトゥエさんとヴォさん。

K君は、先日の歓迎会で、「一楽ラーメン」にこだわっていた青年である。日本語ができるが、英語ができない。

Wさんは、日本語はできないが、英語ができる。

ベトナム人学生の3人は、日本語ができず、英語ができる。

つまり、意思疎通は英語でやるしかないのである。

だがベトナムの学生たちの英語は、ひどく訛っていて、かなり聞きとりづらい。

逆に私の英語も、単語の羅列だけで、まったくわかりにくい。

私の英語が通じないときは、日本語でK君に話し、それをK君が中国語でWさんに話し、さらにそれをWさんが、ベトナムの学生3人に英語で話す、という手順で伝えていく。ベトナムの学生たちは、それをベトナム語で確認しあう。

ベトナムの学生が私に質問するときには、その逆である。

つまり、4カ国語による前代未聞の伝言ゲームがはじまったのである。

さて、朝9時、市内に向けて出発。

朝から気温はぐんぐん上がり、歩いていてたちまち汗だくになる。

こっちはすっかりぐったりだが、学生たちは楽しそうである。

いろいろと英語で質問してくるので、こちらも英語で答えなければならない。

ある神社に入ることにする。ビデオ撮影担当のリン君に「これは何ですか?」と聞かれ、「shirine」という単語が出てこず、「temple」と答えてしまった。しかもその様子が、しっかりビデオに収められてしまった。

軽く死にたくなる、というより、かなり死にたくなる。英語ができないにもほどがある。

その後、駅の反対側にある大きな公園まで歩き、さらには、駅ビルの展望台に登った。

お昼12時に大学に戻り、学生たちは昼食である。私は昼食ととりそびれたまま、午後1時から、プレゼンテーションの準備を学生たちと始めた。

学生たちは、午前中におとずれた場所について、思い思いの絵や言葉を、模造紙に書いてゆく。

ベトナムの学生のトゥエさんが、私に聞いてきた。

「先生、私、声が小さいので、みんなの前で発表することができません。だから、リン君に発表を代わってもらってもいいですか?」

トゥエさんは、おとなしいが、私に熱心にいろいろと質問してきた学生である。

「必ず全員が発表しなければなりません。声が小さくても、大丈夫です」

と私が言うと、仕方なさそうに「わかりました」と答えた。

午後3時。いよいよ各グループによるプレゼンテーションである。

ここでまた誤算。

各グループに支給したビデオカメラは、職場中からかき集めたものだったので、どれもメーカーや機種が異なる。操作が面倒なものや、中には大型テレビのモニターに接続できないものもあり、せっかく撮ってもらった映像が、流せないグループも出てきたのである。

段取りはもう、ボロボロである。

まあ仕方がない。もともとほとんど準備がないままに始めたことであったのだから。

しかし学生たちは、そんな私たちの「段取りの悪さ」とは無関係に、かなり楽しんでプレゼンテーションを行っていた。

「映像がつながるまでの間、私たちがベトナムの歌を歌います」と、その場をつないだベトナム人学生たちもいた。

もし私が学生としてこの場にいたら、段取りの悪さにイライラしていたことだろう。しかし彼らは、そうではなかった。

ベトナムと中国の学生が、日本について、英語でプレゼンテーションをする。こちらの段取りの悪さも手伝って、客観的に見ればかなりカオスな発表会である。私はこれほどカオスな発表会を目にしたことは、今までにない。

映像機器のトラブルに終始悩まされつつも、彼らの発表は予定の時間どおりに進み、最後は私たちのグループでの番である。

リーダーのリン君を中心に、撮影した映像を流しながら、ひとりひとりが英語で説明をする。

ビデオ撮影を担当したのはリン君だったが、あらためて見てみると、私のアップの映像が、やたら多い。

「どうして、私ばかり映すんでしょうねえ?」横にいたIさんに言うと、

「大汗かいている姿が、珍しかったからじゃないですか?『日本人は、こんなに汗をかくのか』ということに、驚いたんだと思いますよ」と、笑いながらIさんが言う。

たしかに映像に映っている私は、ビックリするくらい大汗をかいている。しかし、まだそんなに親しいわけでもないIさんにもそんなことを言われるとは、私の大汗はよっぽど印象が強いのか?

さてわがグループのトリは、中国人学生のK君である。

「僕は英語が話せないので、日本語で発表をします」

と、上手な日本語で、説明をはじめた。

ひととおり説明が終わって、彼が言う。

「最後に、私たちと一緒に歩きながら、コツコツと私たちの質問にも丁寧に答えてくださった先生に感謝申し上げます」

「コツコツと」という言いまわしが、どうやら私のことを言いあらわしているらしい。

そして一同は頭を下げ、わがグループの発表は終わった。

疲れているせいもあり、ちょっとウルっときた。

すべてのプレゼンが終わり、最後に投票である。これだけ段取りが悪くては、1位を決めるも何もあったものではないが、この投票も、かなり盛り上がった。

段取りなんて関係ないんだな。要は、楽しもうと思うかどうかだ。そのことを、彼らに学んだ。

投票が終わり、トゥエさんが私に言う。

「ごめんなさい。私の発表、全然ダメでした」

「そんなことありませんよ。とてもよかったですよ」実際、トゥエさんの発表は、堂々としていて、わかりやすかった。

「ありがとうございます」トゥエさんは、ホッとした表情を浮かべた。

みんなで集合写真を撮ったあと、会場の撤収作業である。

「ずいぶんカオスな会になってしまいましたね」私が職員のHさんに言うと、

「でも、つい数日前までは、ベトナムの学生はベトナムの学生同士、中国の中国の学生同士で固まっていたのです。ようやくお互いが仲よくなれたって感じです」

夕方5時半前、撤収作業が終わり、教室を出る。学生たちは、食堂で夕食である。

中国の学生のK君が近づいてきた。

「先生は、僕たちと一緒に、夕食を食べないんですか?」

「これから仕事があるんでね」

「そうですか。残念です。今日はありがとうございました」K君が手をさしだしたので、握手をした。

「30日がフェアウェルパーティですよね。そのときにお会いしましょう」

「はい」

みんなと別れ、ドッと疲れが出た。

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コメント

私は紙面上で留学生たちのお名前とお顔とを拝見した次第。

滞在期間中の金銭面を支援するために、税務署と銀行とに赴くことに。当然書類は人数分用意したわけです。

まぁ何はともあれ、直接的ではないにしろ、彼らが楽しい思い出をつくる、ちょっとしたお手伝いができてよかったです。

投稿: 裏方のT | 2012年8月29日 (水) 23時23分

ありがとう。
いろいろな方の見えない力に支えられて、このプログラムは実現したんですね。多くの学生たちが、この大学に留学したいと言ってくれました。
今日のフェアウェルパーティーでの彼らの笑顔を、貴兄にも見てもらいたかったです。

投稿: onigawaragonzou | 2012年8月30日 (木) 22時52分

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